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【鶴見知久社長に聞く スクロールの成長戦略とは?】 「20年に売上高1千億円へ」、サービス事業にも進出

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 スクロールは昨年、個人向け通販において、カタログ通販から撤退した。近年は化粧品通販の買収を進めているほか、今年初めには旅行会社のトラベックスツアーズを買収するなど、新事業にも参入。今後は「複合通販」を旗印に、生協向けの「通販事業」とネット販売の「eコマース事業」、化粧品・健康食品の「健粧品事業」、「ソリューション事業」、海外向け事業の5本柱で成長を目指す。鶴見知久社長に今後の戦略を聞いた。

 ――カタログで商品を販売する総合通販は厳しい状況が続いている。

 「2000年代前半からインターネットで商品を販売する企業が増え、その勢いを大きく増すことになった。ネット販売が紙の通販を凌駕(りょうが)したのは00年代後半に入ってから。そして、10年代にはネット販売が完全に通販の主流となった。かつては当社をはじめとして、カタログを販路の中心とする総合通販企業が何社もあったわけだが、今はアマゾンジャパンを代表にインターネットで品揃え型の通販を展開する企業こそが総合通販と呼べる存在になっている」

 「もちろん、総合通販側も手をこまぬいていたわけではなく、当社でも09年にムトウから『スクロール』という社名に変えることで、ネットへのシフトを明確にした。また、00年代に関していえば、総合通販もネット販売り上げを拡大しており、先進的な取り組みも行っていた。ただ、それは『すでに一定数の稼働顧客を保有していた』ということが大きかったように思う。インターネットはまだまだ未完成なメディアだったため、これまで培ってきたハウスリストが有効に機能したわけだ」

 ――しかし、思うようにネットから新規顧客を獲得できなかった。

 「10年以降は純粋なネット販売企業が大手仮想モールを主な販路として急速に台頭してきた。既存の総合通販とはスピード感が違う点が大きい。総合通販の場合、カタログを発行する半年以上前から商品の仕込みを始めなければならないため、『旬の商品』を載せることはできない。しかしネット専業の場合、今ここにある商品の写真を撮って掲載し、ネットで販売することが可能だ」

 「それでも、00年代までは『品揃え型』で対抗することができたが、純粋なネット販売企業が台頭してくると、優位性がなくなってきた。変革はものすごいスピードで進み、総合通販は対抗できなかった。会社のビジネスモデルとしても『カタログを発行する』ことが大前提になっていたわけで、人も商品もシステムもそこに特化しており、すべてシフトすることは難しい。そこもネット販売企業に対して負け続ける原因だった」

 ――スクロールでは生協向けを除き、個人向けではカタログ通販から撤退した。今後の自社の成長性をどうみる。

 「主力である通販事業の中心となるのは、既存の生協市場におけるアプローチとなるが、生協自体は組合員数が増えて供給高も成長している。当社と生協は50年近い付き合いであり、アパレルやインナー、雑貨などをカタログとインターネットで販売しているわけだが、衣料品市場がシュリンクする中で、大きな成長が望めないのも事実。そのため、さまざまな商材を提案することで堅実に伸ばしていきたい」

 ――eコマース事業は競争の激しい分野だ。競合にどう対抗する。

 「子会社の中ではナショナルブランド化粧品のイノベート、ブランド品のAXES、アウトドア用品のミネルヴァ・ホールディングス(HD)が大手仮想モールの中でもトップクラスの店舗を保有しており、売り上げ自体は今後も成長を続けていくだろう。問題は薄利だということ。商品の差別化を進めないと店舗のオリジナリティーやユニークさは出せない」

 「いくらトップ店舗ではあっても、今と同じカテゴリーの商品を扱っているだけでは成長の限界がある。同じビジネスモデルを採用しながら、違う商材を扱う店舗を仮想モールに出店していく。例えば、イノベートではカラーコンタクトレンズの店舗を、AXESでも男性用の商材を販売する店舗を開設している」

 ――健粧品事業では近年、積極的に買収を進めている。

 「eコマース事業に属する子会社とは損益構造が全く違うため、利益を大きく稼ぐことが可能だ。とはいえ、化粧品ビジネスは当たれば大きいが、当たらないことが圧倒的に多い。今後は、横展開としてさらなるM&Aを仕掛けることもあるだろうし、既存事業についてはプロモーションを強化することで、ブランドや商材の認知度を高めていく必要がある」

 ――買収した子会社が手掛ける化粧品ブランドの成長戦略は。

 「今年から仕掛けていく。ナチュラピュリファイ研究所の『24hコスメ』は欅坂46の平手友梨奈さんを、T&Mの『TV&MOVIE』は女優の中谷美紀さんをブランドミューズに起用して、それぞれ攻勢をかけていく。キナリの『草花木果』については、まだ買収元である資生堂のインフラを活用しているため、システムなどを当社グループに移管する必要がある。しっかりと体制を整えた上で次の成長というステージに進む予定で、本格展開は19年からになるだろう」

 ――ソリューション事業に関しては、物流代行の需要が拡大している。

 「現在は浜松市に物流センターを構えているが、関東にも物流センターを設ける予定だ。さらに、ミネルヴァHD子会社のイーシー・ユニオンも物流代行事業を手掛けており、大阪市にセンターがある。これまで、本州の真ん中にある浜松市から出荷できることが強みとなっていたが、当日・翌日配送が当たり前になった今の状況を考えると、1拠点体制ではクライアントのニーズをすべて満たすことができない。また、東京・浜松・大阪という3拠点体制は、今後の成長が期待できるだけではなく、リスク分散という点でもメリットが大きい」

 ――トラベックスツアーズの買収で旅行事業に参入した。

 「小売りの業態や消費者が大きく変化する中で、体験型の"コト消費"に関する事業については、自分たちで生み出すことができなかった。コト消費や、時間や金銭面で余裕がある"アクティブシニア"に対応した商材をどうするかを考えたときに、自分たちで一から立ち上げるというよりは、すでに存在する事業を取り込んだ上で、当社のノウハウも活用しながら変化させていく方が早い。具体的には決まっていないが、サービス分野でもさらなるM&Aを進めていく」

 ――目標としてきた連結売上高1000億円の達成時期は。

 「17年3月期の連結売上高は約588億円だが、21年3月期には達成したい。現在は通販事業の比重が大きく、連結売上高の57%、連結経常利益の69%を占めている。複合通販というコンセプトのもと、他の事業を成長させていくことで到達できると思っている」

しまむら ECチャネルの開拓に着手、早期に外部モール出店、店舗取り寄せアプリも

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 カジュアル衣料大手のしまむらは、消費者の購買行動の変化などに対応してECチャネルの開拓に着手する。まずは早期に外部のECモールに出店するほか、顧客が気になる商品を最寄りの実店舗に取り寄せることができるスマホアプリを今夏にも投入する。来期には自社通販サイトも開設する方針で、専用倉庫の確保も視野にEC市場に打って出る。

 競合となるSPA型のファストファッションブランドがEC展開を加速する中、しまむらは仕入れがメインで、多品種小ロットの品ぞろえもあってEC参入に消極的だった。ただ、同社の2018年2月期の連結売上高が前年比0・1%減の5651億円と9年振りの減収となったことに加え、衣料品のECや古着、フリマアプリなどのCtoCビジネスが拡大していることを受け、「(店頭の)小売りだけを見ていればいい時代ではなくなった」(北島常好社長=写真)としてECチャネルの開拓に乗り出す。

 現状、外部ECモールへの出店準備を進めており、楽天やアマゾン、ヤフー、ファッション専業では「ゾゾタウン」などとの契約交渉を行っているようで、今期(2019年2月期)の早い時期に出店する。しまむらではモール出店を通じてECチャネルのノウハウを蓄積し、自社ECの開設につなげたい意向だ。

 ECモールでの品ぞろえは自社プライベートブランド(PB)を中心に、商品全体の2~3割を展開するという。

 また、今年8~9月をメドに、消費者が気になる商品を最寄りの実店舗に取り寄せることができるスマホアプリをローンチする計画で、主力業態の「ファッションセンターしまむら」だけで1401店(前期末時点)を構える店舗ネットワークを生かした"店舗受け取り型EC"を開始する。通常は他店から商品を取り寄せるのに2週間程がかかるが、アプリの活用で短縮化を図りサービス水準の向上につなげる。当該アプリも定番品を中心にまずは商品全体の2~3割が受け取りサービスの対象となるようだ。

 自社ECについては来期(20年2月期)のスタートとなる見通しで、EC専用の倉庫を構えることも検討。注文を受けてから平均2日で届けられる配送スピードが自社ECのサービス水準として不可欠と判断すれば、システム面だけでなく物流拠点も含めた投資に踏み切ることになる。

 しまむらでは当面、EC投入する商品群をPB中心に絞る考えからも、「どんなに頑張ってもEC化率は10%程度ではないか」(北島社長)としており、前期のしまむら事業の売上高が4461億円であることから、まずは400億円超のEC売上高を目標に取り組むと見られる。

ファンケル中期経営計画 3年後に売上高1260億円、ブランド多角化で海外展開も加速

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 ファンケル3年後に1260億円の売り上げを目指す。化粧品はブランドを多角化、健康食品はパーソナルサプリメントの発売による独自市場の創造に成長力を求める。20年度以降の継続成長を見据え、海外の本格成長に向けた布石も打つ。前中計で成長の原動力になった広告先行戦略を維持しつつ、収益性にもこだわり営業利益は126億円を目指す。3月23日、2018年度(19年3月期)を初年度とする中期経営計画の中で発表した。

 化粧品事業は今期、約649億円の売り上げを見込む。主力の「ファンケル化粧品」は国内売上高が450億円超となり、単一ブランドとして成長の余地が狭まる中、新ブランドを立ち上げる。

 現在の中心顧客層は30代後半から50代半ば。すでに手薄だった60代以降の女性向けに「ビューティブーケ」を立ち上げている。今春にはアラサー世代、19年にはアラフォー世代向けに低価格帯ブランドを立ち上げ、ドラッグストアなど流通ルートで展開する。海外はアジアで中国、香港、台湾、シンガポールのほか3~4カ国に進出。北米も来期に外部ECサイトに出店して再進出。グローバルブランドとして確立を目指す。

 
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子会社のアテニアは今期に約110億円の売り上げを見込む。3年後にこれを150億円まで引き上げ、海外進出に向けた準備を進める。北米中心に展開する「ボウシャ」は今期に約30億円の売り上げを見込む。今後、欧州、中近東で展開し、3年後に1・5倍の売り上げを目指す。

 「ボウシャ」は、化粧品専門店のセフォラへの卸を通じて北米約1000店舗、アジア約300店舗で展開。今後、EUの計19カ国で約900店舗、中近東約50店舗に販売網を広げる。セフォラが進出していないイギリスは独自の販路を築く。

 健食事業は、今期に約355億円の売り上げを見込む。現在、国内売上高に占める機能性表示食品の割合は45%(昨年12月時点)。今後、「カロリミット」「えんきん」に続くスター商品として、中高年向けの機能性表示食品「内脂サポート」の展開を強化する。商品の統廃合も進め目的に応じて選びやすい商品体系にする。来期中に問診を通じて最適な健食を提供するパーソナルサプリも発売する。

 海外は、中国市場を最重要市場と位置付け展開。昨年、中国で免税店や医療機関の運営を行う中国国際医薬衛生公司と販売代理店契約を締結しており、3年後の事業化に向けた準備を進める。

 チャネル戦略では、自社通販で今夏に通販と店舗の顧客のデータ共有化を進めるほか、外部のビッグデータを活用してCRMを最適化する。直営店は、3年後に205店舗を計画(17年度末で197店舗)。内外美容提案をベースに、メーク強化型店舗など立地に応じて役割を明確化する。流通ルートは化粧品が1万2000店舗(14年度は7700店舗)、健食が6万店舗(同4万7000店舗)と拡大の余地が少なくなっていることから一店舗あたりの売り上げ拡大を図る。

 広告戦略は、年間70~80億円だった広告投資を前中計で150億円規模に引き上げた。今中計もこれを維持。「正直品質。」という企業スタンスを伝える企業広告と商品広告の両輪で進める。商品広告はネットへのシフトを進め、効率化によりねん出した費用を新ブランドの投資に充てる。



本格成長へ基盤固め

【島田和幸社長との一問一答

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 新中計発表に際し、島田和幸社長は「売上高、営業利益とも当初目標に届かなかったがV字回復を果たした」と成果を口にした。

 前中計(15~17年度)で広告先行成長戦略に踏み切り、売り上げは14年度の776億円を底に回復。今期は1075億円を見込む。06年度に記録した1010億円を超え、11年ぶりに過去最高を更新する。一方、前中計を振り返り、計画が未達に終わったことに「足りないのは実行力」とも話した。

 今中計では既存事業の成長を維持しつつ収益性にこだわり、海外の本格成長に向けた基盤固めを行う。20年度に営業利益では、12年3月期に記録した115億円を超える過去最高益を目指す。3月23日の新中計発表における一問一答は以下の通り。

 ――前中計未達の背景に「実行力」の不足をあげた。要因と解決に向けた取り組みは。

 「15年度に広告先行戦略に舵を切ったが、それまで広告投資を先行できず、四半期ごとの利益を優先してきたことが一例。経営サイドの反省もある。(従業員の取り組みも)レベルは相当上がったが、まだ抜け漏れはある。(改善の)積み重ねと考えている」

 ――海外展開の狙いは。

 「既存事業の成長余地はまだあり、20年までの成長を支える。ただ、21年以降を考えると今から新しい芽を育てなければいけない。国内はOEMやBtoB事業など新規事業、海外は化粧品を全世界で、健食をまず中国で。3年後に海外売上高比率は11%(現在9%)、ハードルは高いが30年に25%を目指す」

 ――数値目標は売上高が3年で約17%増、営業利益は約63%増。試算の背景は。

 「本来、これだけ売上増があれば営業利益ももう少し伸びる。ただ、昨年から宅配運賃の値上げがあり、商品配送やカタログ・DM発送、出荷業務などトータルで年間15億円ほどアップする。地域限定正社員制度の導入で人件費も数億円増加するため営業利益は弱めの伸びとみている」

 ――新センター増設と今後の物流戦略は。

 「物流の課題は、『運賃値上げ』と『物量増加』の二つ。これをどう吸収するか。一つは昨年からカタログ発送部数を減らした。30代半ばまでのお客様はスマートフォン、PCの情報提供中心に3~4割部数を削減すると年間数億円の削減になる。また、4月下旬から一律100円の運賃をいただく。送料無料を止めた」

 「『物量増加』は売上拡大の影響。ピーク時に当日出荷できないケースが一部ある。現在、千葉県柏市に物流拠点があるが、3~4年以内に関西圏に新拠点を稼働させる」

 ――化粧品のアジア展開の販路は。

 「直営店中心に拡大する。とくに中国、香港はプレミアムブランドの位置づけ。高級百貨店でカウンセリング主体に展開する。ただ香港ではネット販売導入のテストを終えており取り組みは進める」

 ―この先3年間の設備投資の計画は。

 「製造関連で44、45億円。優先すべきは健食の供給能力の増強。化粧品はこの3年は既存3工場で対応する」

 ――化粧品の新ブランドと既存ブランドのすみ分けは。

 「中心顧客は30代後半から50代半ば。19年に予定するアラフォー向けは今の客層だが通販や直営店より手軽に、ドラッグストアで購入できるブランドを想定する」
 

ロコンド シャディの全株を共同取得、ラオックスと投資会社運営、ITと販路拡充で経営改善へ

 靴とファッションのネット販売を手がけるロコンドは、投資事業会社のLキャピタルトーキョー(LCT)を設立し、同社を通じてニッセンホールディングスからギフト販売大手シャディの全株式を20億円で取得することを決めた。併せて、LCTをロコンドの業務提携先であるラオックスとの合弁会社体制に移行し、ロコンドのITと物流インフラや、ラオックスと中国親会社によるインバウンド需要の取り込みや海外販売力を生かすことでシャディの企業価値向上に乗り出すことになった。

 株式取得に関する契約は3月26日に締結し、譲渡日は4月27日。ロコンドがLCTを通じてシャディの全株式を取得後、ラオックスがLCTの第三者割当増資を引き受け、LCTの持株比率はラオックス60%、ロコンド40%となる。ロコンドは業務のデジタル化やオムニ化を可能にする各種プラットフォームサービスの導入先拡充を図るとともに、シャディが生み出す利益を主力のEC事業に投下していく考え。

 シャディの2017年2月期連結業績(14カ月の変則決算)は売上高約706億に対し、営業損失が約8億円、当期純損失が約9億円と苦戦しており、今後、ロコンドとLCTの社長を務める田中裕輔氏がシャディの取締役会長兼経営改革プロジェクトリーダーに就任し、シャディの井原章善現社長とともに経営改革を迅速に実行する。

 シャディはロコンドのプラットフォームサービスや開発中の基幹システムを導入してシステム費用を削減し、業務の生産性向上を図るほか、2020年度までにシャディのEC売上高を50億円まで引き上げるという。

 シャディの経営改革プランの詳細は同社各拠点の実地調査も行って4~5月中に策定する。6月からは第1フェーズとして利益改善を徹底。システム内製化によるシステム費用の大幅抑制やオペレーション内製化による外部委託費用の抑制に取り組むことで月間1億円の固定費削減を図る。

 9月からは第2フェーズとして売り上げ拡大に着手。通販サイトの最適化やECチャネルの拡充、ファッションや電化製品など商品ラインアップの強化に加え、ラオックス店舗との連携も始めることでインバウンドおよびグローバル売り上げの拡大につなげる。

 ロコンドは昨年、日本事業を譲り受けたグローバルファッションブランド「マンゴ」で自社プラットフォームサービスをフル活用し、業務生産性の向上やECを軸とする売り上げ拡大策を展開。日本のEC売上高を前年比3・2倍にしたのに加え、黒字化にも成功したことから、今後はファッション領域に限定せずデジタル化やオムニ化で企業価値向上を実現できるM&Aを実施していくことを明らかにしていた。

 今回はその第1弾で、中国市場に強いラオックスの店舗網も加わることで、「シャディの経営を時代の最先端に引き上げたい」(田中裕輔社長)としている。

【北川拓也執行役員が語る"楽天市場の近未来像"】パーソナライズ化が強み伸ばす、人間はイノベーション創出に専念

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 楽天の仮想モール「楽天市場」では、個々のユーザーにあわせてサービスを最適化する「パーソナライズ化」を進めている。先頭に立つのは、グループのデータを統括する北川拓也執行役員だ。楽天の目指すパーソナライズ化とはどんなものか。北川執行役員に楽天市場の近未来像を聞いた。

 ――楽天での役割は。

 「グループ全体のデータを統括しており、特にネット販売に関しては『店舗にデータを活用してもらいたい』という思いから、さまざまなデータを提供している。例えばアクセス解析ツール『Rカルテ』は店舗に分かりやすい形でデータを提供したいとチームのメンバーと共に考えて作ったものだ。『ページ診断サービス』は、商品ページのどこが優れているか、あるいはどこに改善の余地があるのか、ということをユーザーの行動から見つけ出して伝えるサービス。さらに、最近は『A/Bテスト』ができるツールをリリースした。設定さえすれば、以前のページと比べてどれだけ良くなったか、あるいは悪くなったが分かる」

 ――社内向けのデータ提供は。

 「当社のECコンサルタント(ECC)向けのデータ提供もやっていて、より高度なデータ分析を可能にするために『ECC BIツール』を作った。コンサルタントとしての力をさらに上げてもらうことが目的だ。ECCにはコンサルティングファームの人たちに負けないくらいの力を身につけて欲しい」

 「映画『アイアンマン』では主人公がスーツを身につけるとアイアンマンになるが、"データ"という"スーツ"を身につけることで最強のコンサルタントになれるようにしたい。最近は人工知能(AI)を使った自動化が注目を集めているが、ECCをエンパワーメントする、つまり人間の持つ力を高めるためのツール作りをしている。ECCは数字好きな人が多いということもあり、勉強会なども自分たちで開いて熱心に取り組んでいるようだ。会社の働き方を変えるという意味でもすごく良い取り組みだと思う」

 ――仕事の効率化が進んでいる。

 「それもあるが、『店舗のためになるコンサルとは何か』いう本質的なポイントを考えられるデータをECCに与えられるようになったことが大きい。今までより詳しいデータが見られるようになったことで『店舗はこの部分で困っていたのか』と分かるようになれば」

 ――それ以外には。

 「バックエンドの部分でも仕事をしていて、プロダクトカタログの整備もチームの役割。同じ製品なのに違う商品として売られているものをまとめたり、商品レベルでタグを付けて管理したりしている。楽天市場の場合『RANコード』というものを発行し、JANコードなどよりも細かく管理できるようにしている。とにかくデータを分かりやすく、きれいにしていくというものだ」

 「ユーザーがモノを探すときの『欲しがり方』は人によってかなり違う。『このブランドが好きだから』という人もいれば、『赤が好きなのでカラーを赤で統一している』という人もいる。モノを欲しがる理由は人によってさまざまで、コトに紐付いていることもある。データをきちんと整備してこそ、いろいろな軸から商品を探すことができるようになる」

 「もう一つ、コンピューターが理解できるデータ、これを『構造データ』というが、これにきちんと置き換わっているかどうかが肝になってくる。30年後にはAIが進化して、私たちの喋る言葉を理解する世界が来るのかもしれないが、5年先ではちょっと厳しい。とすれば、まだしばらくは構造データの必要性は変わらないわけで、ユーザーがモノを選ぶ際に重要な要素となる。さらに中期的にみると、AIが学習する元のデータともなる。ゆえに、プロダクトデータをきれいにするのはとても重要なことだ」

 ――楽天市場におけるユーザーの行動分析をどのような形で活かしているのか。

 「行動の分析から構造的なことを理解し、戦略を立てることに注力している。例えば、楽天市場においてどんなマーケットが伸びていて、どんなマーケットで競争が高まっているか。言い換えると、店舗に参入してもらいたいブルーオーシャンはどこなのか、もしくは苦戦するであろうレッドオーシャンはどこなのか。これらをユーザーの行動から導き出した上で、構造的に今のサイトの作りが良いのか悪いのかを分析する。ランキングやサイト内検索など、トラフィックを左右する機能は限られている、こうした機能はある一定のロジックで作られている。そうすると、それに当てはまるマーケットの商品は売れやすいが、当てはまらないマーケットの商品は探しにくく、売れにくいという、いわばひずみが見えてくる」

 ――そのひずみを解消するためにサイトの構造を変える。

 「最終的にはそうしなければいけないが、大きなシステムなのですぐに変えることは難しかったりするし、他の部分にひずみが出る恐れもあるので、簡単なものではない。『構造を変えたらこれだけ効果が出る』とまで言い切るのは難しいが、少なくともひずみが出ていることを役員に指摘するのは重要だ」

 ――最近は「ネットでのモノ売り」の構造が大きく変わりつつある。

 「ネットでモノを売るという商売全体の問題として、スクリーンサイズやユーザーインターフェイス、ユーザーエクスペリエンスに決められてしまっているというものがある。いくら多くの店舗にたくさん商品を売ってもらいたくても、画面が小さいと表示できる商品は限られてしまうわけだ。当社でも努力をしているが、まだまだやるべきことはたくさんあって、最近ではパーソナライズ化に注力している」

 「スマートフォン時代となり、画面が以前より小さくなった。インターネットの場合、検索ワードがとても重要なのは知られているが、検索ワードでトラフィックを取りやすいか取りにくいかという数字で見ると、この1年でみるとかなり取りにくくなってきている。プラットフォーマーとしては、こうした構造上の問題を解決して、たくさんの店舗が勝てる世界を作っていきたい」

 ――そもそもデータを活用することのメリットとは。

 「本来は価値があるのに、まだお金になっていない分野を見つけ出せること。パーソナライズ化とは『本当はこの商品はこんなユーザーに価値をもたらすのに、まだ顕在化していない』というニーズを見出して提供することにつながる」

 ――楽天市場ではこれまでどのようにデータを活用してきたのか

 「初期において重要だったのはランキングやレビュー。データを集めてきて、ユーザーに見てもらうことで効果を発揮するというシンプルなやり方だ。次に重要性を増してきたのが検索。そこからさらに進んで『適切な人に適切な商品を見せる』という世界を作る、つまりパーソナライズ化がカギになってきた」

 ――パーソナライズ化が進めば新規客も獲得しやすくなる。

 「サイトが大きくなればなるほど、単にA/Bテストを繰り返すだけだと、ヘビーユーザーのテイストに寄っていく傾向がある。いろいろなユーザーがいる中で『A/Bテストを実行した時期的に、偶然ある商材が売れる条件が整っていた』などの理由から、一度傾向が強く出ると、A/Bテストによって加速されていくことがある。つまり『本当はすごく伸びるはずなのに、いまいち売れない』というセグメントが出る恐れがある」

 「そこで、適切なセグメントに適切なユーザー体験を提供するということが、パーソナライズ化の成しうる力だ。セグメントに適したユーザーがあまり多くなかったとしても、パーソナライズ化が進めばそのニーズを捉えることができる。当社では、最適な商品価格設定やクーポン配布を可能にする仕組みを導入しているが、今後は『どんな顧客が商品を欲しがっているか』を加味するようになると、もっと進化するだろう。ヘビーユーザーといっても、限られた店舗で買っていることが多いと思う。今まで利用したことがない店舗でも買ってもらえるようにすれば、店舗はもっと成長するはずだ」

 ――楽天市場内での回遊性も高まるわけだ。

 「各店舗や各サービスがそれぞれ独自にユーザーを獲得しようとすると、コストは非常にかさむ。楽天市場というサービスが獲得したユーザーが、各店舗を回遊するような仕組みを実現することが理想だ。『楽天スーパーポイント』を使ったポイント経済圏でそれを進めているわけだが、『テイストベース』というか、『顧客一人ひとりが興味を持っていること』という軸でつなげていく。楽天市場の強いところは『モノ』ではなく『コト』を重視して買い物をするときに、ジャンルのクロスが起こりやすいことだ。例えば、バレンタインデーのように、人への想いを伝えるイベントの場合、プレゼントはチョコレートでもいいし、iPhoneケースでもいいわけで、ジャンルが限定されているわけではない。そこで、今まで食べ物ばかり買っているユーザーに対して、『バレンタインにはiPhoneケースもおすすめ』と提案すれば、『今まで食べ物ばかり買ってたけど、他にもいいものたくさんあるよね』と気づいてもらえる。こうしたことを、イベントにあわせてできるというのは、ユーザーがモールを回遊する非常に良いきっかけになる」

 ――今後の取り組みについて。

 「パーソナライズ化を進化させるのは前提だ。今、広告の世界ではネイティブ広告が主流になっており、コンテンツでない広告は見てもらえなくなりつつある。ユーザーにとって興味がある内容であれば広告はコンテンツになりえる。その一方で従来型の広告らしい広告には手を出さなくなっている。ユーザーの『時間』という資産をいかに大事にできるか、ということがどの企業にとってもここ数年の重要な課題になるだろう。適切なユーザーに適切なコンテンツを見せるという部分のテクノジーは進化させなければいけない。それができないと、競合に負けてしまう可能性は十分にあるので、そういったメディアになる必要がある」

 ――会社としてはAI活用も課題として掲げている。

 「私たちがやろうとしていることの一つは、ビジネスプロセスの自動化だ。例えばグーグルの『アルファ碁』を見ていて面白いのは『100%の自動化と80%の自動化は雲泥の差』であること。例えば店舗に登録してもらった商品ジャンルの分類は間違っていることがあって、現段階では私たちが手動で直している。機械学習やAIはあくまで補助であり、人間に対して提案する程度にとどまっているが、これはこの1、2年で逆転させるべきだと思う。機械が全部決めて、万が一間違っていたときには人間が直すという構造にするべきで、これを実現するために必要な精度は何%であるべきかを考えて、システム設計をしてほしいという話をメンバーにしている」

 「これが『100%か80%か』という話につながって、今のAI活用はバックエンドのデータをきれいにするというような役割だが、だんだんフロントに近い場所で活用していく。商品説明文を自動で修正し直すというような技術も出てきているから、AI活用はさらに進むだろう。『ユーザーに魅力的な商品を提案する』というのは、囲碁における『次の一手』に似たものだ。AIの提案が良い買い物体験につながる場合もあれば、あまり良くないこともあるので、うまくいくカテゴリーを見つけ出すことができれば、パーソナライズ化がより高度なレベルで実現できるはずだ」

 ――AIが進化した世界での人間の役割とは。

 「コンピューターは感情がないので知性が伸びない。人間はそれを進化させるのに力を使うようになるだろう。人間はイノベーションを起こすことだけに時間を使うようになって、オペレーションはAIが実行する。これはとても健康的なことでは。ユーザーの新しい欲望や世界観が出てきた時に、それを捉えるのは人間の仕事になるわけで、店舗がそういったことに集中できるようにできればベストな未来。ECCに関しても、店舗のことを深く理解して、店舗と一緒に仕事をするようになる」

 ――三木谷社長は「楽天市場は自動販売機ではない」と強調している。パーソナライズ化をどのように競合との差別化につなげるのか。

 「ユーザーの文脈にあわせてより良い商品を提案することが大事だと思っている。パーソナライズ化は人とモノ・サービスのマッチングだが、モノやサービスを揃えるのは誰かということ。楽天市場の場合は店舗などパートナーに頼る部分も大きい。そのため、モノ・サービスの多様性が出てくる。パーソナライズ化を大事にするべきだという私の主張は、パートナーのビジネスや気持ちを重視するという当社の考えにフィットしているから。いくら人を集めてきたところで、モノやサービスの多様性がなければうまくマッチングできない可能性は高い。モノやサービスを作るには思い入れがなければいけないし、さまざまな価値観もないといけない。一つの企業・文化で運営していくのではなく、多様な価値観を持つパートナーが提供するモノ・サービスに人をマッチングしていくことが楽天らしさであり、ユーザー・パートナーともウィンウィンの関係が作れるのではないか」

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