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忍びよる"言葉狩り"の影<だいにち堂、消費者庁を提訴> 健食表示規制、左右する訴訟に

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 「目の健康」に関する健康食品の表示をめぐり、だいにち堂が行政処分の取り消しを求め消費者庁を提訴した。一般的に、行政訴訟における国の勝率は9割。対するだいにち堂は、年間売上高わずか10億円ほどの企業。公権力に抗う中小企業の姿勢を、諦観を持ってみる関係者は少なくない。だが、この訴訟は「対岸の火事」ではない。国の勝訴は、イメージ訴求してきた健食の取締り容認を意味し、今後の健食市場の表示規制を大きく左右するからだ。訴訟の背後には、消費者庁がすでに着手する新たな"言葉狩り"の影もちらついている。

突如途絶えた消費者庁の音信

 「貴社の販売する(商品の)表示は景品表示法および健康増進法で禁止する不当表示および虚偽誇大広告に該当するおそれがあるため、調査を実施することになりました。(中略)標ぼうする症状改善効果の有効性を示す合理的根拠となる資料の報告をお願いします」。昨年秋頃、ある企業のもとに販売する健食の表示について、消費者庁から調査依頼が寄せられた。だが、不安に駆られながら複数回のやり取りを経た今年2月頃、突如として消費者庁からの音信が途絶える。

 詳細は後述するが、時同じくして水面下ではある出来事が起こっていた。昨年3月に行われた措置命令の処分取り消しを求めただいにち堂の審査請求(異議申し立て)が消費者庁で棄却され、処分が確定していたのだ(2月26日)。以降、だいにち堂は行政訴訟の手続きを始め、今年8月、東京地裁に処分取り消しを求め提訴した。

「顧客の理解歪め、業界全体が委縮」

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 だいにち堂は昨年3月、販売するアイケア関連の健食「アスタキサンチン アイ&アイ」(=画像(下))の表示をめぐり、消費者庁から優良誤認で措置命令を受けた。「ボンヤリ。にごった感じ」「ようやく出会えたクリアでスッキリ」といった表示、眼鏡をかけて読み物をする中高年男性の写真とともに「新聞・読書楽しみたい方に」などと表示した広告表現が「あたかも摂取することで目の症状を改善する効果が得られるかのような表示」と違法認定を受けたためだ。

 処分当時、だいにち堂はホームページに「表示は社会通念を逸脱したものではない」との認識を表明。措置命令が顧客の理解を歪め、「業界全体を萎縮させる恐れがある」として法的措置も検討するとしていた。以降、通常であれば行われる日刊紙等への「謝罪広告」の掲載が行われておらず、その動向が注目されていた。

 業界関係者が衝撃を受けたのは、消費者庁が"イメージ訴求"の健食に対する取締りを本格化させたと受け止めたためだ。

 従来、健食通販企業は、広告で複数の表示やイラストからくる"印象"で訴求してきた。「ボンヤリ―」などはその典型。だが、消費者庁はこうした表現を明確に否定。それだけに、処分に「これがダメなら全部ダメ」などと不満をこぼす関係者が少なくなかった。

 おりしも機能性表示食品制度の導入され、「目の健康」などの分野で機能表示が増えていた時期。従来、景表法による健食の処分といえばダイエットと相場が決まっていたが、アイケア関連の健食に対する初めての処分であったことにも動揺が走った。そこに今回、前出の企業関係者が明かす「調査依頼」の伏線がある。

"生殺し"の状態 

 「『キーン』『ジージーザーザー』が気になる」「不快な雑音が気になる方に」。巷に溢れる「耳の健康」に関する健食の広告表現の一例だ。使用される健食素材で著名なのは、「蜂の子」。ほかに「冬虫夏草」「イチョウ葉」などが「『聞こえ』の健康維持」に悩む層に一定の認知がある素材として知られる。昨年秋頃、消費者庁はこれら健食を扱う企業に一斉調査を始めた。

 調査を行った具体的な広告表現は不明だが、通販大手の一社、山田養蜂場は詳細の取材は応じられないとしたものの、「指摘を受けたのは事実」と認める。ほかに複数社が消費者庁から調査があった事実を認める。「10社超が調査を受けている」と話す広告代理店関係者もいる。そこで前出担当者が明かしたのが先の調査依頼だ。

 ただ、景表法には「不実証広告規制」に基づく合理的根拠の提出要求権限があるが、健増法の場合は"任意"。消費者庁は明確に根拠資料を求める法令を絞っておらず、「広告表現の該当部分を赤枠で指定され、根拠資料を求められた」(前出担当者)という。

 適用法令を明確にしていない場合、手続き上の問題が生じる可能性もあるが、このために「(健増法に基づく)指導を前提としたものか、措置命令なのか。連絡がパタリと途絶え、"生殺し"の状態」と販売企業の多くは今も不安を抱えている。狙いはどこにあるのか。

耳鳴りがコワイ?

 行政に近い関係者が見解を示す。

 「今回、『耳鳴り』関連の表示規制は、『ボンヤリ・にごった感じ』という表現の取締りを行っただいにち堂のケースと同じ。そうした抽象的な表現を規制するとなれば、また行政訴訟を起こされるリスクも生じる。このため、判決を待って取締りを本格化する狙いがあるのではないか」。実際、審査請求の棄却に不満を抱えただいにち堂はそのまま提訴に向かった。

 景表法絡みの訴訟に詳しい弁護士も「だいにち堂に関する処分は『ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善するかのような表示』と、広告表現を直接規制したもの」と、従来の処分事例と異なる点を話す。

 個別の表現の取締りは"言葉狩り"ともいえるもの。だいにち堂も訴状で「個々の表現は抽象的、あるいは主観的内容、感情や印象を表示したに過ぎない」と主張。個別表現の取締りは、憲法に定めのある「表現の自由」を規制するものであり、消費者庁自身、「各表示を個別的に見れば複数の意味や用例があり、一義的に『目』や『視覚』に関する表示と断定するに至らない」としていると主張する。こうした背景から「『耳の健康』に関する調査を"保留"している」(前出行政に近い関係者)との見方を示す。

                     ◇

 消費者庁に「耳の健康」に関する健食の調査を行っているかを尋ねたが、「調査内容については答えられない」と答えるのみ。このため真相は分からない。

 ただ、だいにち堂をめぐる訴訟の行方が今後の健食の表示規制に大きな影響を与えることは間違いない。その行方を注視する必要がある。



だいにち堂に"エールの声"


消費者庁、説明責任を放棄


<提訴めぐる反応は?>


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 勝率10%。これがだいにち堂が突きつけられている現実だ。行政訴訟で国を相手に勝てる見込みは薄く、傍目に劣勢は明らかだ。ただ、それでもなお訴訟に踏み切っただいにち堂に業界関係者から"エール"も聞こえてくる。

 業界団体関係者は「全体の印象から言えば"目の健康を示唆している"と言われても仕方がないかもしれない」と慎重な見方を示すが、企業関係者からは「年間売上高でいえば10億円ほどの企業。それでも国の向こうを張って闘うのは肝が据わっている」といった声も。

 元行政の執行担当官も「本来であれば指導で十分。ここ最近の法運用は(疾病予防のような表現を)健康増進法の指導で済ませたり、一方で(今回のような事案に)景表法を適用したりちぐはぐ」と話す。別の行政関係者も「健増法の『勧告(行政指導)』であれば処分でないため取り消し訴訟のリスクはない。本来、景表法は事業者や業界をつぶすことが目的ではなく、広告の是正を図ることが目的。指導は手柄にならないために景表法でやっている印象がある。行政効率を考えれば指導で行うべき」と話す。

 昨年11月には、「葛の花由来イソフラボン」を配合した機能性表示食品を販売していた16社に対する一斉処分も行われた。日増しに強まる表示規制に業界も萎縮。事業者の不満が蓄積している。その表れか、機能性表示食品の届出公表数も今年に入り激減している。こうした規制に「過剰規制は業界の萎縮を招く」と、司法の場で真正面から主張するだいにち堂の主張は注目に値する。

 一方、消費者庁にだいにち堂の主張を否定するか尋ねたが「個別の事件について、司法の場で検討されることなので、行政庁としてのコメントは差し控える」(定例会見で岡村和美長官)と、自ら行った処分であるにも関わらず肯定も否定もせず。提訴の事実は裁判所がすでに公表しているが、受け止めにも「(主張を)会社が公表されているのであればそれは会社の判断。行政庁としてはコメントを差し控える」と説明責任を放棄している。




法運用、一石投じる裁判

<だいにち堂、訴訟の行方は?>

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「だいにち堂の処分の場合『ボンヤリ・にごった感じ』をそのまま認定している。そうなると、"そのような意味ではない(例えば加齢性遠視に効くなどとは表示していない)"といった形で争いにくい」。景品表示法に詳しい弁護士は、こう訴訟の見通しを語る。

 例えば、ダイエットは「食事制限しなくても」「運動しなくても」がNGワード。ただ違法認定は「あたかも特段の運動をすることなく著しい痩身効果が得られるかのような表示」と、いわば"お役所言葉"でされる。

 だが、だいにち堂の処分は表現そのものを直接的に「ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善するかのような表示」と認定。このため反論しにくいと関係者はみる。

 また、処分当時、消費者庁は「(提出された)ヒト試験の根拠論文に書いてある摂取量より、商品に含まれる成分量が少なかった」とも話していた。機能性表示食品でも「根拠論文」と「論文記載の配合量」の一致は必要。この点も反論が難しいかもしれない。

 ただ、直接的な表現の"言葉狩り"に反論する主張は一考に値する。

 だいにち堂は、訴状で「ボンヤリ・にごった感じ」といった表現は、「抽象的、あるいは主観的内容、感情や印象を表示したに過ぎない」と主張。この点、消費者庁も違法認定にあたり「各表示を個別的に見れば複数の意味や用例があり、一義的に『目』や『視覚』に関する表示と断定するに至らない」と認めていたとする。そうであれば、消費者庁は表示そのものが「著しく優良」であることを明らかにする義務があるというものだ。

 要は、「ボンヤリ―」は、どうとでも解釈できる抽象的表現であり、その優良性を示さなければ「事業者側は争う手段がない」とするもの。よって、法執行の手続きが違法というものだ。

 一例として「○○病に効く」「決して燃えない布」といった表現を挙げる。こうした効果の"明示"と異なり、「ボンヤリ―」は多様な解釈が可能。この点に留意した法執行でなければ恣意的な運用を招き、憲法で保証する「表現の自由」を規制するものになるとする。前出関係者は、従来の規制と異なる点を「そのものの認定で争いにくい」としているように、ダイレクトに表現を規制するなら、その表現の優良性を示せというものだ。

 2016年、措置命令の取り消し訴訟を起こした翠光トップライン(17年、東京地裁で請求棄却で決着、1672号既報)の場合、処分を前にした「弁明の機会」に優良性の説明がないことを問題視した。判決で退けられたが、今回はこれと態様が若干異なる。

 また、「行政の措置命令書は『違法と判断した表示、根拠条文、以上』で終わる。法運用に議論の余地があるのは確か」と話す関係者もいる。

 行政訴訟で国が負けない背景には裁判官が景表法の専門的知識に精通しておらず、"無難な判決"を下す傾向にあることもある。司法行政の問題は割愛するが、景表法の"いびつ"な運用に一石を投じることになるかもしれない。


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