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Eコマース業界のキーマンが語る今後の通販市場 「お客様のオムニ化に対応する」

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化粧品通販のドクターシーラボで長らくEコマース事業を含めたネットマーケティング戦略を担当・統括してきた西井敏恭氏(写真㊨)と、良品計画でネットと店舗をつなぐスマホアプリ「MUJIパスポート」を立ち上げるなどウェブ戦略を担う中心人物であった奥谷孝司氏(同㊧)というEコマース業界で多くの実績を残し、また、知名度も高い2人のキーマンがともに食品EC大手のオイシックスに参画、タッグを組んで同社の事業拡大に取り組んでいる。Eコマースを熟知した両氏が描くオムニチャネル戦略とは。また、通販企業が目指すべきEコマースの方向性とは。(聞き手は本紙編集長・鹿野利幸、記者・兼子沙弥子)

すべての接点を"最適化"する

Q:昨今の通販市場ではオムニチャネル化が進んでいる。オムニチャネルをどう考えるか。

 奥谷孝司COCO(以下、奥谷)「重要なのは、オムニチャネル化しているお客様に対し、企業がオンラインとオフラインで対応していくことだと考えている。

 企業側が語るオムニチャネルは、もともとネットが弱い会社の取り組みが最初で、売り上げを起点に考えられがち。資金力がある企業が店舗とネット販売をつないで、お客様が両方を使うように導いている。

 だけど、私はそうではないと思う。オムニチャネル化しているお客様に対して、産地やメーカーの見える化や、お客様と産地のコミュニケーションを図りながらブランドを立体的に見せて体験してもらい、オンライン上でくちコミが投稿されて広がることだと思う。

 とは言え、入社後は店舗利用のお客様と定期便を利用するお客様のデータを掛け合わせて、定期便を休むお客様に店舗の案内を出すといったことをやった。案内を受けたお客様が店舗に来店したか、またその翌週も定期便をキャンセルしたかを分析した。それがすべてではないが、今後の布石として必要だと思う」

 西井敏恭CMO(以下、西井)「オムニチャネルと言って、何を定義するかでしょうね。お客様から見て、すべての接点を最適化するのはマーケティング全体で必要な施策。接点となるオンラインメディアやオフラインの梱包などで、一貫したコミュニケーションをしっかり作る必要がある」

 奥谷「お客様との関係性をしっかり分かって、オンラインとオフラインで良い顧客体験を提供する。それはマーケティングの原点回帰のようなものでもあると思う」

お客様の体験をデジタル上に 

Q:良い顧客体験とは何か。

 奥谷「オイシックスは、毎週木曜日にサイトが更新されて、カートに商品が入っている状態で買い物がスタートする。カートから買い物が始まるというのは驚きなんですよ。お客様が買いたいものを企業がパーソナライズ化して提案できるようになれば、お客様の買い物時間を短縮できる。

 企業側でお客様が買いたいものを提示するアルゴリズムを作って、それに基づいてキャンペーンマネジメントを走らせて、リテンションをかけていくことができれば、そこに新しい顧客体験が生まれる。お客様にとっては、買い物の手間が無くなって、その空いた時間で料理をし、家族との団らんの時間を作ることができる。オンラインの『買う』とオフラインの『作る』『食べる』『団らん』の全てが顧客体験になる。オイシックスのサービスを利用して家庭で起きるすべての体験を、デジタルでどう見せるかだ」

 西井「私も、お客様が中心になる市場は加速していくと思っている。オンラインの強みは、ユーザーの声といったオフラインで見えなかったことを可視化できることだ。とはいえ、可視化できるようになったら、以前はペルソナを立ててマーケティングしていたけど、本当はペルソナのような人はどこにもいないことが分かってしまったんですよね(笑)。パーソナライズ化をしっかりやって、お客様の声に真摯に向き合うことは大事。社内体制も変化し、お客様の評価が集まる商品を仕入れたバイヤーを評価し、生産者やメーカーもヒーローになれるようになれば面白いと思う」

Q:2人から見て、オムニチャネルが成功しているサービスはあるか。

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 奥谷「オムニチャネルがしっかりできているのは『ゾゾタウン』だと思っている。まず、ネット販売で洋服が売れない時代に、洋服をネットで売れる仕組みを作った。ファッションをパーツとしてネット販売を極めた。

 その後に、アプリ『ウェア』を配信して、ファッショニスタが着用する写真を見たお客様が『ゾゾタウン』で購入する流れを作った。ファッションは着て初めて成立するもので、品ぞろえだけ増やしてもしょうがないんですよ。オンラインを使って良い体験ができる『ゾゾタウン』はやはり、オムニチャネル化しているなと思う」

大手にはない価値の提供を

Q:良い顧客体験は事業にどう生きるのか。

 奥谷「お客様がわざわざネットで注文して買ってくれるのは、実物を確認せずに購入していることなので、お客様とブランドが対等にコミュニケーションし、信頼関係を構築していることになる。お客様と対等な関係で支持された企業はこれからも成長すると思う。

 一般的にブランドがどう作られてきたかというと、企業がコンセプトとターゲットを決めて、消費者に見せてきた。これからは、お客様と一緒に成長してきた価値やブランドをデジタルで作り上げ、その価値をオフラインでもしっかりと見せる。そういうことができるブランドは、もっと伸びる」

Q:大手GMSなどのオムニチャネル化が加速している。脅威は。

 西井「ネットスーパーだったら、すぐに届く利便性を提供して市場が広がって、野菜をネットで購入することが当たり前になればいい。そうなったときに、オンライン企業は他社とは違う価値をお客様に提供できている必要はあると思う。

 オイシックスは、すごく忙しいお母さんがいる中で、データに基づく提案や、忙しさに対応する商品開発できる会社になっている。大手はチラシで価格の安さを訴求しているが、通販会社として価格ではないところの価値をしっかり作っていけば、ネットでビジネスをしてきた先行者としての利益は得られる。むしろ、これができなければ、私たちマーケターの敗北なんですよ(笑)」

エンゲージ高めるECか否か

Q:今後のEC市場はどうなっていくか。

 西井「『アマゾン』か『アマゾンじゃないか』の二極化になると思う。ロングテールの品ぞろえで簡単に安く早く手に入るサービスと、お客様の体験すべてで価値がでるサービスに分かれるのではないか。アマゾンでも楽天市場でも手に入る商品を、メーカーの公式サイトで購入する理由をどう定義するかは重要だ。今、成長している通販サイトは、アマゾンにはできないサービスを作ろうとしている」

 奥谷「違う見方をすれば、電子商取引としてのネット販売と、エンゲージメントを高めるためのネット販売になるのではないか。エンゲージメントを作る世界にならなければ負ける。それはネット販売だけでなく、カタログ通販もそう。

 即日配送や越境ECはトレンドだけど、それは現象面の話。即日配送でエンゲージメントが高まるか考える必要がある。アマゾンに勝てないなら、発想を変えるべきだと、私は思う。エンゲージメントを高めることを目指せば、オンラインもオフラインも必然的に対応することになる」

お客様はPCもスマホも同じ

Q:広告効率の悪化などで新規客獲得を課題とする通販企業は多い。

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 西井「新規客を取りにくくなっていると言うが、新規の定義にもよると思う。タクシー配車アプリ『Uber』はこれまでにない新しいサービスだから当然、新規しかいないはず。サービスをちゃんと磨いてブランドを作っていけば新規は増える」

 奥谷「オイシックスは『まだ10万人』の認識なので、もっと伝えればもっとお客様は増えると思っている。お客様に選んでもらうブランドになれば、ケタが1つ増えたって不思議ではない」

 西井「広告を見ている立場からすると、スマホは新規が取れなくなっているとか、購買率が低いとか言われているが、お客様はPCもスマホも同じなので、本質的にはあまり変わらない。ただ、コミュニケーションツールとしては複雑になっていて、そこが難しい。案外、通販では紙が復活するかもしれないよね。商品が届いたときには必ず箱を開封するので、絶対目にするものだから」

 奥谷「そうなんですよね」

 西井「奥谷さんからみて、アメリカの状況は」

 奥谷「すべてのビジネスがUber化すると思う。モバイルファーストになって、スマホで注文して決済
までできる時代になるのだと思う」

Q:これからの企業はモバイルファーストを考えなければならない。

 奥谷「そこで選ばれるようにする必要はある」

 西井「面白いですよね。(将来の市場を考えながら)今更スマホって。やっぱり、スマホのビジネスインパクトは大きくて、それ以外の手段は変わっていないんですね」

 奥谷「そう。最終的な話は同じ。お客様とつながる方法は、ツールがEメールから『LINEビジネスコネクト』になっただけ。それ自体は全然、イノベーティブではないんですよね。『お客様にリーチする』という、やっていることの本質は何も変わらないわけです」

食体験をオンラインに乗せる

Q:奥谷さんは良品計画のウェブ戦略の中心人物だった。オイシックスに転職した理由は。

 奥谷「食の領域でデータを中核にマーケティングをやってみたいと思った。食の欲求は面白いもので、1億2000万人が3食食べれば3億6000万件のデータが取れる。だけど、1週間の献立すべてを精緻に考えている主婦はどこにもいないんですよ。計画されていない消費行動を収集して、何をどのぐらい食べるかを精緻にデータ化できれば、生産者の生産計画に活かすことができる。当社のバイイングパワーが上がるかもしれないし、廃棄される食品を減らすことができるかもしれない。

 オフラインが弱い会社のオムニチャネルというものにも興味がある。オンラインでお客様のことを理解してオフラインに対応できる会社は、どのポジションにいっても面白いと思う」

 西井「オイシックスで収集できるデータは、店頭のPOSとは異なり、顧客情報が紐付いた連続性のあるもの。私もこうした計画性のない消費をデータ化できれば面白いと思う。ほかにも、お気に入りに商品を登録しても、レコメンドした商品を閲覧しても、購買につながらなかったものもある。お客様の興味もデータ化できれば、マーケターとしてはすごく興味深いデータだと思う」

Q:オイシックスにおける2人の役割は。

 西井「私が通販に近いところを、顧客体験を奥谷さんが担当する。ただ、明確に分けているのではなく、お互いの経験に近いところを分担している」

Q:オイシックスの課題や強みは。

 奥谷「課題でもありチャンスだと思うが、世界に通用するブランドがあることにもっと自信と誇りを持ってもらいたい。私がいた無印良品は、ブランドガイドラインがあってトーン&マナーがしっかりしていた。毎週の売り上げを伸ばす中で、どうしても力が入っているページとそうでないページの差が出てしまう。顧客体験として、どのページを見てもオイシックスのブランドを感じるようにしなければいけないと思う」

 西井「奥谷さんが考えていることと一緒。奥谷さんの参画で、スピードが2倍になる。奥谷さんが参画したことで、若手社員にとってすごく良い環境になったと思う。毎月2回、奥谷さんの『COCO谷講座』をやっている。社内の会議室は満員で、座れない人がいるほど盛況だ」

 奥谷「無印良品での経験からオイシックスでできることとか、私だったらこの企画をどうするかとか、オイシックスでやりたいことなどを話す。社員の方と僕の考えが合っているところと違うところが分かる」

 西井「オイシックスの社員は外部から入ってきても拒否反応がない。真面目に講座を聞きに来ていて、社風も風通しも良いと思う」

Q:まだまだマーケ部門には人が増えるのか。

 西井「マーケだけじゃなく、いろんな部署で転職者を受け入れている。マーケターはくすぶっているくらいなら転職した方がいいし、転職によって柔軟性が持てるし打ち手も広がる。評価してくれる経営者の元で働くべきでしょうね」
新しいプラットフォームを構想

Q:オイシックスでやりたいことは。

 奥谷「『買った』ことがオンラインの体験で、『食べた』ことがオフラインの体験になる。オフラインの体験をオンラインに乗せてもらうことで、まさにオムニチャネルになる。目指すものは、ファンを可視化して、エバンジェリストにもっとくちこんでもらうためのプラットフォームのようなものを作りたい」

Q:くちコミのプラットフォームで実現できることは何か。

 奥谷「今まではクレームに真摯に向き合っている会社であることが見えにくかったので、それも見えるようにしたい」

 西井「オフラインの体験をオンラインにのせていくためのもの。くちコミをアクションとしてデータを収集できれば、面白いデータになる。ただ、あくまでもそれは部品で、お客様に楽しんでもらうものを作りたいと考えている」

Q:スタートはいつ頃か。

 西井「来年か、もっと先になるかもしれない。今、構想中です」

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