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老舗大手カネボウの蹉跌、製品回収で浮かぶリスク

011.jpg 化粧品大手のカネボウ化粧品(以下カネボウ)が美白関連化粧品の自主回収を発表した。研究開発をベースにし、老舗大手として長年に渡り実績を積み重ねてきた企業の蹉跌は、「製品回収」というリスクがどの企業にも起こりうる事態であることを示している。回収を巡る背景に何があり、なぜ2年もの間、被害症例は放置され続けたのか。カネボウの製品回収の背景に、危機管理の盲点となっていたリスクが浮かび上がってくる。消費者の"安心・安全"に対する要求が高まる中、企業には何が求められるのか。

肌が白くまだら製品100万個回収

013.jpg 「肌がまだらに白くなる」。7月4日、カネボウの製品回収と共に発表されたこの肌トラブルは多くの事業者に衝撃を与えた。女性を美しくすることが目的の化粧品であったためだけでなく、その当事者が老舗大手のカネボウであったためだ。まず回収の経緯を振り返りたい。

 カネボウでは今年5月、皮膚科医から3症例の指摘を受けて調査を開始。その結果、11年に寄せられた1件の相談以降、これまで計39件の症例があることが分かった。

 調査結果を受けて厚生労働省などに報告。「生命に関わるなど重篤ではないため必ずしもということではないが、注意喚起か自主回収の判断を委ねられ、被害の拡大防止が第一と考えた」(同)と、回収を決めた。

 対象は、美白関連の有効成分「ロドデノール」(医薬部外品指定成分)を含む54アイテム。百貨店や専門店、量販店、ドラッグストアに累計436万個出荷しており、顧客数は約25万人(推計)、製品売上高は国内で年間約50億円に上る。カネボウではこのうち、店頭在庫58万個と家庭にある約45万個(同)を回収すると発表。回収費用として約50億円を計上し、全国・地方紙への社告掲載やメールアドレスを把握する約73万人、住所を把握する約18万人へのダイレクトメールで回収を進めるとした。ではなぜ症例の発見に2年を要したか。

「白斑」、肌トラブルに分類せず

 カネボウでは、消費者相談窓口や販売店から寄せられた情報を、データベースで一元管理する。寄せられた情報は、医師の診断報告を受けて研究開発部門への報告や原因究明を判断する「肌トラブル」と、その後のフォローを必要としない「相談」に分類される。

 11年に寄せられた相談は、顧客に皮膚科の受診を勧めたものの、医師が皮膚疾患の一つである「尋常性白斑」と診断。化粧品との因果関係を指摘しなかったため、「『相談』に分類された」(カネボウ)という。

 とはいえ、2年で寄せられた症例数は39件になる。内訳は、(1)5、6月にそれぞれ別の皮膚科医から指摘を受けた計6例、(2)医師が「白斑」と診断した12例、(3)診断は得ていないが"まだらになっている"という相談7例、(4)店頭から"まだらになっている客がいる"と相談を受けた14例。その都度、気づく機会はあったはずだ。

 これを見過ごしてきた原因をカネボウは「多くは医師が『白斑』と診断したため、化粧品ではなく病気の範疇と判断した。情報も『肌トラブル』や『相談』などあちこちに分類され、一つの症状として捉えるまでに至らなかった」(同)と話す。「(原因と疑われる)『ロドデノール』は厚労省の承認を受け、安全性に係る社内基準もクリアしていたため、これが原因という考えに至らなかった」(同)という背景もあった。

国の承認、リスク認識の遅れに?

 カネボウの対応に業界関係者からは、「因果関係の問題はあるにせよ、トップがきちんと謝罪し、被害の現実を鑑みた対応に潔さを感じる」といった声が聞かれる一方、「11年に症例があったことを考えると初動が悪い。厚労省の承認を得ていたためもたついた印象がある」との指摘もある。2年という期間の評価が分かれるが、回収に発展した背景には関係者からいくつか指摘がある。

 ある事業者は、「市場の競争が激化する中、より効果感を求めた差別化競争に突入していることが背景にあるのでは」と話す。「美白」や「抗加齢」をテーマに市場は日々、技術革新が進む。企業は他社にはない独自成分を求め、特に市場ニーズの高い美白市場では、大手が独自成分でシェア拡大を図っている。「独自成分であるがゆえに、その使用にはより慎重さが求められる」(別の事業者)。

 一方、「ロドデノール」は、国の承認を受けた部外品指定成分であり、化粧品、医薬部外品はそもそも「人体への作用が緩和なもの」と理解されている。"白斑の重篤度は高く少数でも回収という判断"と複数の事業者は指摘するが、製品に対する信頼が、「白斑=疾患」「疾患=医薬品の範疇」との解釈を生み、"独自成分"が持つリスクへの認識を遅らせたかもしれない。その意味で、これを承認した国にもその責任の一端はあろう。

被害事例収集再考の余地も

 早期発見に向け、肌トラブル収集を巡るハード面の課題も浮かぶ。

 多くの企業は、顧客から寄せられた相談や肌トラブル事例を、その「質」「量」の面から収集する仕組みを構築している。カネボウはデータベースの管理項目や判断基準について「ノウハウであるため詳細を公表できない」とするが、例えば「製品別」に分類された場合、同じ有害事例が複数製品で出ても、その関連性を見出すには時間がかかる。「肌トラブル別」や「成分別」といった項目があっても、検索機能の精度を高める取り組みが必要かもしれない。

 販路が多岐に渡っていたことも災いしたかもしれない。カネボウでは、店頭の美容部員からも情報が吸い上げ、情報を一元管理する。ドラッグストアなどセルフ店も「多くは美容部員がおり、いない店舗も化粧品担当の従業員から情報が寄せられる」(カネボウ)。ただ、取引先社員を含めた情報収集には、不安要素も残る。顧客台帳やメールアドレスも、全ての顧客を網羅できてはいない。


 ある事業者は「自分たちが同じ立場であったらどうか。毎月クレームの報告は見ているが、これを教訓に重要性に気づけるかという危機感は生まれた」と話す。

 市場の競争が激化する中、ないがしろにされがちな化粧品の危機管理のあり方を改めて再考する必要がありそうだ。

リスクは予見できたのか?「白斑との関連疑えた」

012.jpg 「写真で確認しただけだが、皮膚が色落ちしているようであれば自分なら美白成分と疑う。因果関係の検証はすぐできないが、薄々『ロドデノール』ではという仮説は立つ。多くの技術者がそう思うのではないか」。ある化粧品会社の代表は、「ロドデノール」が原因と疑うまでに時間を要したことに疑問を呈す。

 理由は後述するが、まず美白剤の作用を簡単に説明したい。

 美白剤の目的は、シミなどの原因となるメラニンの生成を抑えること。ただメラニンは紫外線から肌を守る上で必要でもある。このため、メラニンを生成するメラノサイトには影響を及ぼさないよう注意が払われる。メラノサイトは一度細胞が壊れると再生できないためだ。人の肌がその機能を失えば肌は白くなる。

 カネボウは「白斑」の原因として2つのケースを説明する。一つはメラノサイトが何らかの原因でメラニンを生成できなくなる、いわゆる疾患の「尋常性白斑」。もう一つは、医薬品など何らかの化学物質と接触することで肌がまだらに白くなるものだ。今回は後者にあたると考えられ、カネボウは「100%ではないが『ロドデノール』が原因と考えられる」とする。


 カネボウでもこうした肌への影響を踏まえ、独自の試験を行ってきた。

 2008年、「ロドデノール」の認可を前に、(1)メラノサイトの増殖に影響を与えないこと、(2)申請濃度の2倍量の塗布で白くまだらにならないことなどだ。また、製品も248人を対象に2カ月の使用試験を行い副作用がないと確認。部外品に求められる2年間の市販後調査も実施していた。その際、「軽微のかゆみといった症状は見られたが、通常の範囲内で問題視するものはなかった」(カネボウ)という。

 新原料で部外品認可を取得するには、「9項目試験」という安全性試験をクリアする必要もある。ただ、これは「死角があり、多くの事業者は安全性が万全であることを証明する試験とは思っていない」(前出関係者)。国の指定により行っている背景が強いが、カネボウはそれ以上の試験を行っていたことになる。それでも「白斑」は起きた。



 前出関係者は、美白剤と白斑の関連を疑う根拠として過去の事例を挙げる。美白剤として知られる「ハイドロキノン」に近い構造を持つ「ハイドロキノンモノベンチルエーテル(HMB)」で起きた症例だ。「昔、給食のプラスチックトレーに練りこまれていたHMBが洗浄により溶け出し、従業員の肌が色抜けしてしまった事例があった」という。HMBは現在、化粧品には使えない。

 今回、原因と疑われる「ロドデノール」は、その「ハイドロキノン」や「HMB」に近い化学構造を持つという。強力な美白剤である「ハイドロキノン」を参考に、新原料開発が進んだ背景もあるため一概に評価はできないが、症例との関連を疑うきっかけとはなったかもしれない。

 安全性試験の結果は「(有害例が)出ないと考え試験に臨んだ場合、出るかもしれないという姿勢で臨む場合で異なる。1人に反応が出た場合、異常値として削るか否か、どういう姿勢で向き合うかで変わる」(同)と話す。

 厚労省では今回の件を受け、部外品審査について「報告の蓄積を待って検討する」(安全対策課)としている。原因究明を待つことになるが、いかに安全性を担保するか、その契機となりそうだ。


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