ブランド再構築 各社共通の課題
「"無添加"という部分にうちのブランドコンセプトをはめたらそのまま通用する。(発表された内容と)同じ悩みを抱えているため社内でも話題になっている」。1月18日のリブランディング発表から1週間、ファンケルの再成長に向けた挑戦が化粧品業界の話題をさらった。
前出の通販大手社員の興味を引いたのは、「素肌純化」という新たなブランド価値。「『安心・安全』という原点への回帰だけだとつらいが、安全性を超えてさらなる価値を示せるか、注目している」と話す。
一方、業態の異なる制度品大手社員は「『チャネルシームレス(継ぎ目のない販売チャネル)』に向けた取り組みは脅威」と話す。制度品各社がやりたくても顧客情報の一元管理に向けたデータベースは構築出来ていないだけでなく、そもそも、店舗流通に加えウェブ強化に着手したばかり。「(ウェブがチャネルとして立ってない今の状況では)やる意味がない。通販、店舗で何百万件ものリストを持つファンケルさんがやるならば威力を発揮すると思う」との見方を示す。ファンケルの「リブランディング」が志向するものは何か。
ブランド価値の希薄化迫る進化
「(無添加の価値を)再定義し、進化させていく」。ブランドリニューアル発表の場で成松社長はこのようにリブランディングの要旨を語った。
ファンケルに進化を迫るもの。それは"無添加"というブランド価値の希薄化だ。
かつて鋭さを発揮したコンセプトも、長年に渡る事業展開の中で普遍化。同業他社に同様の価値を打ち出す企業が現れ始め、その輪郭はぼやけ始めていた。
カタログやウェブ、店舗など、それぞれの顧客接点で最適な表現も追求してきたが、「制作物一つとってもブランドの世界観を横断的に管理するセクションはなく、統一感に欠けていた」(同社)。
もう一つの基幹事業である健康食品事業の存在も、顧客に企業に対する複数のイメージを抱かせる一因となり、ブランドの希薄化に拍車をかけた。
通販伸び率鈍化 09年PT発足へ
実際、化粧品事業は苦戦が続いている。2010年3月期は、過去最高となる売上高(=表)を達成したが、これは2ケタ成長が続く海外事業が貢献したもの。国内の通販事業は08年3月期以降、伸び率が鈍化。近年は減少に転じている。
さらに健食事業も危機感を募らせる一因となっている。かつて"価格破壊"を掲げ、低価格路線で業績を伸ばしたが、単品通販の台頭以降、業績は低迷している。
そこで09年秋に立ち上げたのがリブランディングのための社内横断組織「グローバル化プロジェクト」チームだ(発足当時は別名)。
肌悩み別、商品体系見直し着手
「肌に優しいけれど美容効果は薄い」「敏感肌向け」。「安心・安全」という価値を生み出してきた"無添加"だが、その一方で意図しないイメージも定着。このことが「(肌トラブルが起きた際に利用されるなど、ターゲットとなる)パイを限定的にしていた」(同社)。
効果感を含めたブランド訴求の必要を感じる中で再定義した価値が、「素肌純化」だ。
「素肌純化」とは、肌に負担を与えないアンチストレスケアを極めること。"無添加"こそ肌機能の正常化と美容効果の最大化を実現するものであるというものだ。
ファンケルでは、「乾燥・キメの乱れ」「ハリ・弾力不足」など顧客の肌悩み別に商品ラインの見直しに着手。美容液のみあった「ホワイトニング」と50歳以上の肌悩みに対応した「ファンケルBC」を新スキンケアラインとして追加し、3月20日から7つのスキンケアラインを展開する。
肌悩みの根本原因に働きかける共通成分(マルビジン含有花エキス)の配合や、個別の肌悩みに対応した美容成分の配合など処方も変更。肌悩みに対応した機能性を強く打ち出すことで、顧客の新規開拓、継続的な関係性の構築を図る考えだ。
スキンケア、来期売上20%増へ
ファンケルでは、「リブランディング」効果で来期、化粧品事業で10%増、スキンケアで20%増の売上高を目指す。広告宣伝費は過去最大規模を投資。投資額は非公表だが、「『カロリミット(ダイエット健食)』などは来期以降も投資を続けるが、総額で言えば健食事業などを削り、新商品に集中していく」(同社)とする。
販売戦略では、昨年のシステム刷新に伴う顧客情報の一元管理を背景に「チャネルシームレス」を実現させる。店舗や電話窓口、ウェブ(マイページ)で顧客情報を共有し、個々の顧客に最適な製品、肌ケアの提案を行う仕組みの構築だ。
そのため、独自の美容理論に基づく「ファンケルカウンセリングプログラム」を導入。店舗、電話窓口では専用のタブレット端末を使い、購買履歴、製品の使用動向、問診による肌悩みや、スコープを使った肌状態のチェック結果を管理する。これにより顧客とのコミュニケーション深化につなげ、継続率や年間購入金額の向上を図る。
ファンケルの「リブランディング」はスキンケアに留まらない。今後、約1年半の間、ヘアケア、ボディケア、メークアップカテゴリのリブランディングを実施。13年春に海外でも新スキンケアに軸足を置いた展開を始める。
また、発芽米、青汁を含めた健食事業も来年1月をメドに事業の再構築を進める。
競争激化から通販市場の閉塞感が増す中、その打破に乗り出すファンケルの動向が注目される。
"リブランディング"の行方は
ブランドが普遍化を免れることは有り得ない。その切り口が鋭ければ尚の事。これは全ての化粧品企業に共通する課題だ。ファンケルの「リブランディング」は、化粧品通販が共栄の時代を終えたことを印象づける。
ファンケルは肌への優しさを印象づける広告を展開し、これに即したデザイン、世界観を好む顧客を基盤としてきた。その中にあって、効果感や洗練されたデザインに一新するのは、逆に求心力を低下させないとも限らず、相当な試行錯誤があったと推測される。ただ、手をこまねいていても現状は打破できない。その"決断"一つとっても、同じ悩みを抱える通販各社に道筋を示すものとして、評価できるのではないだろうか。
今回の「リブランディング」の成否は、スキンケアにかかっている。あらゆる商材の中で総じて利益率が高く、ブランドチェンジが起こりにくい商材であるためだ。そこで顧客と関係性を築ければ、自ずと継続率、購入単価は高まる。
この点、成松社長も昨年8月、日本通信販売協会の記者懇親会で「残念ながら売れ筋に変化はない。マイルドクレンジングオイル、洗顔パウダーだけでなく、長期的な命題はスキンケアが多くの方の支持されること」と問題意識を語っていた。
ただ、ある通販事業者は、ここ数年のファンケルの取り組みについて、「2年ほど前にマイクレ依存から脱するため、ローション拡販に着手した記憶がある。雑誌の純広告でも化粧水のボトルを前面に打ち出し、おそらくCPOは合わないがイメージ戦略でやっていたのだと思う」と話す。
だが、未だマイクレへの依存度は変わらないまま。「売れなければ現場もつらくなる。どこまで我慢して続けられるか」(前出の事業者)と指摘する。健食、化粧品と商品別に事業部を抱え健食事業のテコ入れも控え、どこまで化粧品に注力できるか、粘り強さが必要になる。
肌悩み別の商品体系の見直しも、「シミ」や「ニキビ」を中核に据える競合が存在する中、カウンセリング強化でどこまで自らの顧客基盤を底上げできるか注目だ。
来春には、海外でリブランディングを展開。「グローバル・プレミアム・ブランド」への進化を目指す。
以前、成松社長は海外売上高比率について「将来的には30~40%が順当なところ」としていた。公式に目標値は発表していないが、海外戦略強化を前に片付けなければいけない問題もある。中国・香港の販売代理店との関係の再構築だ。現在、アジア諸国の展開に関する契約の有効性を巡り、国内の仲裁機関で仲裁が続いているからだ。
ファンケルはこの件について「相手方の出方にもよるが年内には結果が出ると思う」と話す。すでに欧州やアジア諸国で市場調査に乗り出すが、成長が期待される中国で思うようなブランドビジョンを描けるか。この点も課題として浮上する。
制度品大手各社が通販に参入する中、好む好まざるを別として、大手各社との競合は避けられない。顧客行動分析で一日の長があるファンケルが、「チャネルシームレス」を実現し、どこまで市場の支持を獲得できるか、通販各社もその成否に注目する必要がある。
「"無添加"という部分にうちのブランドコンセプトをはめたらそのまま通用する。(発表された内容と)同じ悩みを抱えているため社内でも話題になっている」。1月18日のリブランディング発表から1週間、ファンケルの再成長に向けた挑戦が化粧品業界の話題をさらった。
前出の通販大手社員の興味を引いたのは、「素肌純化」という新たなブランド価値。「『安心・安全』という原点への回帰だけだとつらいが、安全性を超えてさらなる価値を示せるか、注目している」と話す。
一方、業態の異なる制度品大手社員は「『チャネルシームレス(継ぎ目のない販売チャネル)』に向けた取り組みは脅威」と話す。制度品各社がやりたくても顧客情報の一元管理に向けたデータベースは構築出来ていないだけでなく、そもそも、店舗流通に加えウェブ強化に着手したばかり。「(ウェブがチャネルとして立ってない今の状況では)やる意味がない。通販、店舗で何百万件ものリストを持つファンケルさんがやるならば威力を発揮すると思う」との見方を示す。ファンケルの「リブランディング」が志向するものは何か。
ブランド価値の希薄化迫る進化
「(無添加の価値を)再定義し、進化させていく」。ブランドリニューアル発表の場で成松社長はこのようにリブランディングの要旨を語った。
ファンケルに進化を迫るもの。それは"無添加"というブランド価値の希薄化だ。
かつて鋭さを発揮したコンセプトも、長年に渡る事業展開の中で普遍化。同業他社に同様の価値を打ち出す企業が現れ始め、その輪郭はぼやけ始めていた。
カタログやウェブ、店舗など、それぞれの顧客接点で最適な表現も追求してきたが、「制作物一つとってもブランドの世界観を横断的に管理するセクションはなく、統一感に欠けていた」(同社)。
もう一つの基幹事業である健康食品事業の存在も、顧客に企業に対する複数のイメージを抱かせる一因となり、ブランドの希薄化に拍車をかけた。
通販伸び率鈍化 09年PT発足へ
実際、化粧品事業は苦戦が続いている。2010年3月期は、過去最高となる売上高(=表)を達成したが、これは2ケタ成長が続く海外事業が貢献したもの。国内の通販事業は08年3月期以降、伸び率が鈍化。近年は減少に転じている。
さらに健食事業も危機感を募らせる一因となっている。かつて"価格破壊"を掲げ、低価格路線で業績を伸ばしたが、単品通販の台頭以降、業績は低迷している。
そこで09年秋に立ち上げたのがリブランディングのための社内横断組織「グローバル化プロジェクト」チームだ(発足当時は別名)。
肌悩み別、商品体系見直し着手
「肌に優しいけれど美容効果は薄い」「敏感肌向け」。「安心・安全」という価値を生み出してきた"無添加"だが、その一方で意図しないイメージも定着。このことが「(肌トラブルが起きた際に利用されるなど、ターゲットとなる)パイを限定的にしていた」(同社)。
効果感を含めたブランド訴求の必要を感じる中で再定義した価値が、「素肌純化」だ。
「素肌純化」とは、肌に負担を与えないアンチストレスケアを極めること。"無添加"こそ肌機能の正常化と美容効果の最大化を実現するものであるというものだ。
ファンケルでは、「乾燥・キメの乱れ」「ハリ・弾力不足」など顧客の肌悩み別に商品ラインの見直しに着手。美容液のみあった「ホワイトニング」と50歳以上の肌悩みに対応した「ファンケルBC」を新スキンケアラインとして追加し、3月20日から7つのスキンケアラインを展開する。
肌悩みの根本原因に働きかける共通成分(マルビジン含有花エキス)の配合や、個別の肌悩みに対応した美容成分の配合など処方も変更。肌悩みに対応した機能性を強く打ち出すことで、顧客の新規開拓、継続的な関係性の構築を図る考えだ。
スキンケア、来期売上20%増へ
ファンケルでは、「リブランディング」効果で来期、化粧品事業で10%増、スキンケアで20%増の売上高を目指す。広告宣伝費は過去最大規模を投資。投資額は非公表だが、「『カロリミット(ダイエット健食)』などは来期以降も投資を続けるが、総額で言えば健食事業などを削り、新商品に集中していく」(同社)とする。
販売戦略では、昨年のシステム刷新に伴う顧客情報の一元管理を背景に「チャネルシームレス」を実現させる。店舗や電話窓口、ウェブ(マイページ)で顧客情報を共有し、個々の顧客に最適な製品、肌ケアの提案を行う仕組みの構築だ。
そのため、独自の美容理論に基づく「ファンケルカウンセリングプログラム」を導入。店舗、電話窓口では専用のタブレット端末を使い、購買履歴、製品の使用動向、問診による肌悩みや、スコープを使った肌状態のチェック結果を管理する。これにより顧客とのコミュニケーション深化につなげ、継続率や年間購入金額の向上を図る。
ファンケルの「リブランディング」はスキンケアに留まらない。今後、約1年半の間、ヘアケア、ボディケア、メークアップカテゴリのリブランディングを実施。13年春に海外でも新スキンケアに軸足を置いた展開を始める。
また、発芽米、青汁を含めた健食事業も来年1月をメドに事業の再構築を進める。
競争激化から通販市場の閉塞感が増す中、その打破に乗り出すファンケルの動向が注目される。
"リブランディング"の行方は
ブランドが普遍化を免れることは有り得ない。その切り口が鋭ければ尚の事。これは全ての化粧品企業に共通する課題だ。ファンケルの「リブランディング」は、化粧品通販が共栄の時代を終えたことを印象づける。
ファンケルは肌への優しさを印象づける広告を展開し、これに即したデザイン、世界観を好む顧客を基盤としてきた。その中にあって、効果感や洗練されたデザインに一新するのは、逆に求心力を低下させないとも限らず、相当な試行錯誤があったと推測される。ただ、手をこまねいていても現状は打破できない。その"決断"一つとっても、同じ悩みを抱える通販各社に道筋を示すものとして、評価できるのではないだろうか。
今回の「リブランディング」の成否は、スキンケアにかかっている。あらゆる商材の中で総じて利益率が高く、ブランドチェンジが起こりにくい商材であるためだ。そこで顧客と関係性を築ければ、自ずと継続率、購入単価は高まる。
この点、成松社長も昨年8月、日本通信販売協会の記者懇親会で「残念ながら売れ筋に変化はない。マイルドクレンジングオイル、洗顔パウダーだけでなく、長期的な命題はスキンケアが多くの方の支持されること」と問題意識を語っていた。
ただ、ある通販事業者は、ここ数年のファンケルの取り組みについて、「2年ほど前にマイクレ依存から脱するため、ローション拡販に着手した記憶がある。雑誌の純広告でも化粧水のボトルを前面に打ち出し、おそらくCPOは合わないがイメージ戦略でやっていたのだと思う」と話す。
だが、未だマイクレへの依存度は変わらないまま。「売れなければ現場もつらくなる。どこまで我慢して続けられるか」(前出の事業者)と指摘する。健食、化粧品と商品別に事業部を抱え健食事業のテコ入れも控え、どこまで化粧品に注力できるか、粘り強さが必要になる。
肌悩み別の商品体系の見直しも、「シミ」や「ニキビ」を中核に据える競合が存在する中、カウンセリング強化でどこまで自らの顧客基盤を底上げできるか注目だ。
来春には、海外でリブランディングを展開。「グローバル・プレミアム・ブランド」への進化を目指す。
以前、成松社長は海外売上高比率について「将来的には30~40%が順当なところ」としていた。公式に目標値は発表していないが、海外戦略強化を前に片付けなければいけない問題もある。中国・香港の販売代理店との関係の再構築だ。現在、アジア諸国の展開に関する契約の有効性を巡り、国内の仲裁機関で仲裁が続いているからだ。
ファンケルはこの件について「相手方の出方にもよるが年内には結果が出ると思う」と話す。すでに欧州やアジア諸国で市場調査に乗り出すが、成長が期待される中国で思うようなブランドビジョンを描けるか。この点も課題として浮上する。
制度品大手各社が通販に参入する中、好む好まざるを別として、大手各社との競合は避けられない。顧客行動分析で一日の長があるファンケルが、「チャネルシームレス」を実現し、どこまで市場の支持を獲得できるか、通販各社もその成否に注目する必要がある。
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