- 2010年7月22日 15:52
- 特集企画
2度の警告 矛盾する回答
「今年4月と5月の2回、書面で警告してきたが満足のいく回答は得られなかった」。提訴に至った経過を振り返るファンケルでは、「DHCマイルドタッチクレンジングオイル」の特許侵害の可能性を今年4月に確認。書面で警告してきたが、得られた回答は、1回目が"特許侵害となる成分を含んでいません"というもの。2回目が"含んでいることは認めるが使用目的が異なる"というものだったという。
当然、通販大手2社の訴訟となれば業界内外の耳目を集めるのは必至。それでもなお提訴したのは、「仮に侵害しているのであれば正当な競争とは言えず、看過できない」(ファンケル社長室広報グループ)ためだ。
ファンケルではクレンジングの特許技術(油状液状クレンジング用組成物)で複数の特許を持っている。この技術を中心に特許網を構築して知財戦略を進める狙いがあるとみられ、今回の特許侵害を重く見たようだ。
結論は判決を待つことになるが、この判断に対する業界関係者の反応は同調の声が多勢を占めている。
制度品メーカー関連企業の幹部は「商品自体の死活問題であれば提訴の可能性はある」とコメント。化粧品通販大手の幹部も「業界はクレンジングオイルの技術革新と共に歩んできた。ファンケルさんの"するっと落ちる"というクレンジングの技術は業界にとっても象徴的。引くに引けない気持ちは分かる」との見方を示している。
企業間で調整は業界の常識
一方で提訴という手段に業界関係者は一様に驚きを隠さない。というのも、化粧品業界において特許侵害を巡る訴訟が珍しいためだ。
前出の制度品メーカー関係者は、「制度品メーカーであれば販売店への影響を考え、企業間の良識的な話し合いで収まるケースが少なくない。末端顧客を囲い込む通販ならではの問題かもしれない」と推測する。
また化粧品大手幹部も「業界団体に属していれば顔を合わせることもあり、話し合いで解決する機会があった」との見方を示している。
当のファンケルでさえ「把握している中で過去に同様の訴訟案件はなく、今回のケースは稀」(同)との認識。厚労省のある幹部も「DHCさんは大手でしょ」と首をかしげる。なぜ、このような事態に発展してしまったか。一因として考えられるのが、通販業界におけるDHCの特異な存在だ。
業界意識の欠如が招いた提訴
業界最大手として業界をけん引する企業へと成長しながら、"独立独歩"を貫いてきたDHCは、日本通信販売協会(JADMA)会長企業として外部と積極的な交流を持つファンケルと対極に位置する印象が強い。その根底には業界意識の欠如があり、今回の事態を招いたのではないか。
端的な例が03年の「メリロート問題」や07年の「4・13事務連絡」を巡る騒動だ。
メリロート問題では、消費者対応で再三に渡る行政指導を受けてもなお、対応を容易に改めようとしなかったことが、消費者の信用失墜を招いたはず。「4・13事務連絡」(※厚労省が自治体の指導レベル統一を図り健食通販数社の商品名を挙げたもの)においてもDHCは東京都から指導を受けるにつけ「都管轄外のファンケル、小林製薬などの健食は同様の商品名称で販売されている事実があり、自治体によって見解にバラつきがあることに納得いかない」(07年当時のDHCホームページより抜粋)として、厚労省に問題提起。結果として事務連絡が発出された過去がある。だが、これについて厚労省は「DHCさんが知らないだけで他社も指導を受けていたはず」(監視指導・麻薬対策課)という。強弁を繰り返し、他の企業を巻き込むことさえ厭わなかったことが事態の悪化を招いたことは明らかだ。
今回の警告にしても同じだ。書面が明らかでないため、事実を確認することはできないが、2つの矛
盾する回答が事実であれば、あまりに歩み寄りのない誠意に欠けた対応と言わざるを得ない。提訴を巡り、本紙はDHCに電話で取材を申し込んだが、コメントを得ることはできなかった。
特許訴訟の根底にあるものは?――DHCの知財軽視は創業以来の"お家芸"
今回、ファンケルとディーエイチシー(DHC)の間で起きた訴訟は、化粧品通販企業にとって「知的財産」(以下、知財)という非常にセンシティブな問題を巡るものだ。ましてや、クレンジングオイルの特許技術で、通販市場における地位を確固たるものとしてきたファンケルのこと。そこには知財を巡る2社の対照的な姿勢があった。
化粧品業界は、特許をはじめとする知財が非常に多い業界だ。国内化粧品市場の飽和感が高まる昨今、いかにして他社と差別化を図るかが、企業の生命線となるためだ。各企業にとって、知財戦略は、今後、生き残りをかけてシェア争奪に挑む上で重要なカギとなる。
そうした観点で、これまでの2社の特許出願や取得件数をみるとファンケルが圧倒している。そこには、低価格訴求を全面に打ち出すDHCに対し、知財戦略の推進で事業保護を図るファンケルの戦略がみてとれる。
こうした中で起きた今回の訴訟。「DHCマイルドタッチクレンジングオイル」が特許侵害か否かは判決を待つことになるが、化粧品通販大手のある幹部は「提訴に踏み切るのであれば相当調べつくしてのことと思う」との見方を示す。
一方で、商品を販売するDHCも売上高1000億円前後に達する通販大手。自前の研究所を持ち、商品開発を行う中で今回の事態を避けられなかったのか。
企業にとって、特許などの知財は会社の重要な資産。そう思えばこそ、商品開発に当たっては他社が有する知財に対して敬意を払うのはいわば一般常識だ。
今回の提訴に際しても、「商品開発に際して特許を調べつくすのは常識。かなりナーバスになって調べるので、それ(特許侵害)が有り得たのは不可解」(制度品メーカー関連会社の幹部)、「当然、専任部署が調べるので通常は起きないこと」(中堅化粧品通販の幹部)といった声が少なくない。"偶然の賜物"ということもあるだろうが、異例の事態ではあろう。
ましてや、「通販化粧品売り上げナンバー1」を自認するDHCのこと。当然、そのような認識の下で商品開発にあたっているはずで、特許侵害が事実とすれば知財に対する認識の甘さがあったと言わざると得ず、"最先端の設備と優秀な専門スタッフを擁するDHC研究所"(同社ホームページより抜粋)に偽りがありということになりかねない。では訴訟問題はなぜ起きたのか。
その糸口は、DHC創業来の歴史を紐解くと見えてくる。
話は1977年にまでさかのぼるが、当時、「大学翻訳センター」の名で通信教育を展開していたDHCの主要な事業の一つは、全国の大学で使用する語学教科書や副読本の翻訳、いわゆる"トラの巻"の販売事業だ。
しかし、これが問題となる。当時の日本経済新聞によると、著者や出版元に無断で語学教科書を翻訳、学生に売りさばいていたとして、著作権法違反で東京地検に訴えられているのだ。
訴えたのは東京外語大学名誉教授らドイツ語教科書の著者12人と、その出版元である白水社など出版8社。この件について白水社では「その事実はあった」(総務部)としながら、「当時を知る関係者はすでに皆60歳を超えている。彼らが入社当初の頃のことなので結末までは分からない」(同)としている。
だが、このことがDHCの知財軽視の体質を示唆してはいないか。今回の提訴は、まさに"起こるべくして起こったこと"といえる。
訴訟の概要
今回の裁判は、ファンケルが7月13日付でディーエイチシー(DHC)が製造・販売する「マイルドタッチクレンジングオイル」に対し、ファンケルの特許を侵害しているとして対象製品の製造販売差し止めと損害賠償を求め東京地裁に訴えを起こしたもの。第1回弁論は、DHCの答弁書を待って8月末頃に行われる見通し。
ファンケルでは、弁論まで訴状の公表を控えているが、特許侵害の内容はクレンジングオイルに関するもの。4つの成分を組み合わせることで"濡れた状態でも十分なクレンジング力を発揮する"という特性を持つ「油状液状クレンジング用組成物」について08年9月に特許を出願。翌年8月に特許を取得している。
一方、訴訟の対象となったのはDHCが09年1月に発売した「マイルドタッチクレンジングオイル」と同製品を一部含む「ヒットコスメミニセット」。
ファンケル総合研究所の「知財管理グループ」では、定期的に他社製品について特許侵害などがないか分析・調査しており、今年4月にDHCの製品について特許侵害を確認したという。現段階で、同社製品以外に特許侵害の可能性がある製品は確認していないとしている。損害賠償の金額は、「裁判を進める中で確定する」(社長室広報グループ)として公表していない。
「今年4月と5月の2回、書面で警告してきたが満足のいく回答は得られなかった」。提訴に至った経過を振り返るファンケルでは、「DHCマイルドタッチクレンジングオイル」の特許侵害の可能性を今年4月に確認。書面で警告してきたが、得られた回答は、1回目が"特許侵害となる成分を含んでいません"というもの。2回目が"含んでいることは認めるが使用目的が異なる"というものだったという。
当然、通販大手2社の訴訟となれば業界内外の耳目を集めるのは必至。それでもなお提訴したのは、「仮に侵害しているのであれば正当な競争とは言えず、看過できない」(ファンケル社長室広報グループ)ためだ。
ファンケルではクレンジングの特許技術(油状液状クレンジング用組成物)で複数の特許を持っている。この技術を中心に特許網を構築して知財戦略を進める狙いがあるとみられ、今回の特許侵害を重く見たようだ。
結論は判決を待つことになるが、この判断に対する業界関係者の反応は同調の声が多勢を占めている。
制度品メーカー関連企業の幹部は「商品自体の死活問題であれば提訴の可能性はある」とコメント。化粧品通販大手の幹部も「業界はクレンジングオイルの技術革新と共に歩んできた。ファンケルさんの"するっと落ちる"というクレンジングの技術は業界にとっても象徴的。引くに引けない気持ちは分かる」との見方を示している。
企業間で調整は業界の常識
一方で提訴という手段に業界関係者は一様に驚きを隠さない。というのも、化粧品業界において特許侵害を巡る訴訟が珍しいためだ。
前出の制度品メーカー関係者は、「制度品メーカーであれば販売店への影響を考え、企業間の良識的な話し合いで収まるケースが少なくない。末端顧客を囲い込む通販ならではの問題かもしれない」と推測する。
また化粧品大手幹部も「業界団体に属していれば顔を合わせることもあり、話し合いで解決する機会があった」との見方を示している。
当のファンケルでさえ「把握している中で過去に同様の訴訟案件はなく、今回のケースは稀」(同)との認識。厚労省のある幹部も「DHCさんは大手でしょ」と首をかしげる。なぜ、このような事態に発展してしまったか。一因として考えられるのが、通販業界におけるDHCの特異な存在だ。
業界意識の欠如が招いた提訴
業界最大手として業界をけん引する企業へと成長しながら、"独立独歩"を貫いてきたDHCは、日本通信販売協会(JADMA)会長企業として外部と積極的な交流を持つファンケルと対極に位置する印象が強い。その根底には業界意識の欠如があり、今回の事態を招いたのではないか。
端的な例が03年の「メリロート問題」や07年の「4・13事務連絡」を巡る騒動だ。
メリロート問題では、消費者対応で再三に渡る行政指導を受けてもなお、対応を容易に改めようとしなかったことが、消費者の信用失墜を招いたはず。「4・13事務連絡」(※厚労省が自治体の指導レベル統一を図り健食通販数社の商品名を挙げたもの)においてもDHCは東京都から指導を受けるにつけ「都管轄外のファンケル、小林製薬などの健食は同様の商品名称で販売されている事実があり、自治体によって見解にバラつきがあることに納得いかない」(07年当時のDHCホームページより抜粋)として、厚労省に問題提起。結果として事務連絡が発出された過去がある。だが、これについて厚労省は「DHCさんが知らないだけで他社も指導を受けていたはず」(監視指導・麻薬対策課)という。強弁を繰り返し、他の企業を巻き込むことさえ厭わなかったことが事態の悪化を招いたことは明らかだ。
今回の警告にしても同じだ。書面が明らかでないため、事実を確認することはできないが、2つの矛
盾する回答が事実であれば、あまりに歩み寄りのない誠意に欠けた対応と言わざるを得ない。提訴を巡り、本紙はDHCに電話で取材を申し込んだが、コメントを得ることはできなかった。
特許訴訟の根底にあるものは?――DHCの知財軽視は創業以来の"お家芸"
今回、ファンケルとディーエイチシー(DHC)の間で起きた訴訟は、化粧品通販企業にとって「知的財産」(以下、知財)という非常にセンシティブな問題を巡るものだ。ましてや、クレンジングオイルの特許技術で、通販市場における地位を確固たるものとしてきたファンケルのこと。そこには知財を巡る2社の対照的な姿勢があった。
化粧品業界は、特許をはじめとする知財が非常に多い業界だ。国内化粧品市場の飽和感が高まる昨今、いかにして他社と差別化を図るかが、企業の生命線となるためだ。各企業にとって、知財戦略は、今後、生き残りをかけてシェア争奪に挑む上で重要なカギとなる。
そうした観点で、これまでの2社の特許出願や取得件数をみるとファンケルが圧倒している。そこには、低価格訴求を全面に打ち出すDHCに対し、知財戦略の推進で事業保護を図るファンケルの戦略がみてとれる。
こうした中で起きた今回の訴訟。「DHCマイルドタッチクレンジングオイル」が特許侵害か否かは判決を待つことになるが、化粧品通販大手のある幹部は「提訴に踏み切るのであれば相当調べつくしてのことと思う」との見方を示す。
一方で、商品を販売するDHCも売上高1000億円前後に達する通販大手。自前の研究所を持ち、商品開発を行う中で今回の事態を避けられなかったのか。
企業にとって、特許などの知財は会社の重要な資産。そう思えばこそ、商品開発に当たっては他社が有する知財に対して敬意を払うのはいわば一般常識だ。
今回の提訴に際しても、「商品開発に際して特許を調べつくすのは常識。かなりナーバスになって調べるので、それ(特許侵害)が有り得たのは不可解」(制度品メーカー関連会社の幹部)、「当然、専任部署が調べるので通常は起きないこと」(中堅化粧品通販の幹部)といった声が少なくない。"偶然の賜物"ということもあるだろうが、異例の事態ではあろう。
ましてや、「通販化粧品売り上げナンバー1」を自認するDHCのこと。当然、そのような認識の下で商品開発にあたっているはずで、特許侵害が事実とすれば知財に対する認識の甘さがあったと言わざると得ず、"最先端の設備と優秀な専門スタッフを擁するDHC研究所"(同社ホームページより抜粋)に偽りがありということになりかねない。では訴訟問題はなぜ起きたのか。
その糸口は、DHC創業来の歴史を紐解くと見えてくる。
話は1977年にまでさかのぼるが、当時、「大学翻訳センター」の名で通信教育を展開していたDHCの主要な事業の一つは、全国の大学で使用する語学教科書や副読本の翻訳、いわゆる"トラの巻"の販売事業だ。
しかし、これが問題となる。当時の日本経済新聞によると、著者や出版元に無断で語学教科書を翻訳、学生に売りさばいていたとして、著作権法違反で東京地検に訴えられているのだ。
訴えたのは東京外語大学名誉教授らドイツ語教科書の著者12人と、その出版元である白水社など出版8社。この件について白水社では「その事実はあった」(総務部)としながら、「当時を知る関係者はすでに皆60歳を超えている。彼らが入社当初の頃のことなので結末までは分からない」(同)としている。
だが、このことがDHCの知財軽視の体質を示唆してはいないか。今回の提訴は、まさに"起こるべくして起こったこと"といえる。
訴訟の概要
今回の裁判は、ファンケルが7月13日付でディーエイチシー(DHC)が製造・販売する「マイルドタッチクレンジングオイル」に対し、ファンケルの特許を侵害しているとして対象製品の製造販売差し止めと損害賠償を求め東京地裁に訴えを起こしたもの。第1回弁論は、DHCの答弁書を待って8月末頃に行われる見通し。
ファンケルでは、弁論まで訴状の公表を控えているが、特許侵害の内容はクレンジングオイルに関するもの。4つの成分を組み合わせることで"濡れた状態でも十分なクレンジング力を発揮する"という特性を持つ「油状液状クレンジング用組成物」について08年9月に特許を出願。翌年8月に特許を取得している。
一方、訴訟の対象となったのはDHCが09年1月に発売した「マイルドタッチクレンジングオイル」と同製品を一部含む「ヒットコスメミニセット」。
ファンケル総合研究所の「知財管理グループ」では、定期的に他社製品について特許侵害などがないか分析・調査しており、今年4月にDHCの製品について特許侵害を確認したという。現段階で、同社製品以外に特許侵害の可能性がある製品は確認していないとしている。損害賠償の金額は、「裁判を進める中で確定する」(社長室広報グループ)として公表していない。
- Newer: ヤフー、CCCのTポイントと提携
- Older: 出版社の通販戦略④ インフォレスト "世界観"でキャバ嬢に訴求
Trackbacks:0
- TrackBack URL for this entry
- http://www.tsuhanshinbun.com/mtos-admin/mt-tb.cgi/543
- Listed below are links to weblogs that reference
- ファンケルvsDHC 特許侵害で法廷闘争へ――際立つDHCの"異質"な姿 from 通販新聞
