- 2010年7月 8日 13:22
- 特集企画
健康食品通販事業者の薬事法への甘い認識が事業の存続さえ困難にしかねない重大な過ちに発展する可能性が出てきた。今年6月、神奈川県警が薬事法違反で摘発した「東京総合販売」の経営者らを組織犯罪処罰法(組犯法)容疑で再逮捕したためだ。組犯法は暴力団や、宗教団体を偽装した組織に対する刑罰の加重を主眼とするため、これまで健食通販事業者への適用例はなかった。だが、県警では今後、薬事法違反を犯す事業者への組犯法適用も辞さない覚悟を示す。薬事法よりさらに刑罰の重い組犯法適用の前例が作られたことは、全ての健食通販事業者のリスクを高めることになる。

特異なケースではない
「健食がなぜ売れるかと言えば"この商品はこんなに素晴らしい"と、インパクトを打ち出すから。安易に売らんがため、事業者はすれすれの広告表現で勝負する」。「東京総合販売」を捜査した神奈川県警では健食通販を展開する事業者をこのように捉える。
この指摘は、事業者が抱える苦悩の一面を言い当てているといえる。確かに、健食通販では機能性をどれだけ分かりやすく消費者に伝えることができるかが売り上げを左右するからだ。
このため、事業者は薬事法など関連法規の枠内で広告表現に頭を悩ませることになる。が、中にはすれすれの表現であることを認識しつつ用いる者も存在する。過去の薬事法違反事件(=表)をみても「薬事法を守っていては商品が売れない」といった供述が散見されるのがその証左といえる。
こうした中、複数の法人をつくり摘発を逃れていた「東京総合販売」の事例を多くの健食通販事業者が"特異なケース"と、判断するのは想像に難くない。
だが、そのような認識に同県警は、「薬事法違反を犯して得た収益は、組犯法で定めている不法収益に当たる。ならば今後は十分に組犯法適用の可能性がある」との現実を突きつける。ただ、そのような判断を下す背景には、忸怩たる思いもあったようだ。
「5年以下の懲役」科される場合も
従来、事業者が注意せねばならない関連法規と言えば、特定商取引法、薬事法、健康増進法、景品表示法が主たるもの。薬事法違反は警察が動くと刑事事件に発展するため最もリスクが高いといえるが、罰則は「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金」。過去の違反事件をみても1年前後の懲役に3~4年の執行猶予判決が通例になっている。
対する組犯法は、「東京総合販売」に適用された第9条の罰則が「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」というもの。
過去の違反事件の是非はさておき、「一部の悪質事業者は行政指導が入ると社名変更や新会社設立を繰り返し、販売を続けるケースが少なくない」とする県警の立場に立てば、薬事法違反を犯して不法収益を得た事業者の摘発に血道を上げても、一定期間の"みそぎ"を終えれば再起できると理解するのは無理もない。健食通販事業者の摘発で他県を圧倒する神奈川県警だからこそ、そのような薬事法の限界を感じていたのかもしれない。こうした悪質事業者の根を絶つため、厳罰が下される可能性がある同法を適用したといえる。
"おいしい商売"は甘すぎる認識
だが今回、神奈川県警による「東京総合販売」を巡る事件は、単なる悪質事業者の摘発という特異なケースに留まらない一つの教訓を示している。それは、健食通販は"おいしい商売"ではないということだ。薬事法に対する甘い認識は「経営者の逮捕」という事態を招くだけでなく、組犯法によって「事業の存続」さえ揺るがす事態に発展しかねないためだ。
これまで、健食通販市場は拡大基調を維持してきた。その背景には、各社、地道な努力で消費者の信頼を得てきたことがある。最近ではネット市場の拡大に伴う参入障壁の低下が、中小、異業種の新規参入を加速させていることもあるだろう。
一方で健食は、まともな法体系が整備されていないため、広告表示に関する明確な法規定がない。このことが一部で薬事法違反の疑いの強い広告表現を用い、売らんかな主義に走る事業者が存在することを許してきてもいた。
だが今後、そのような甘い認識で健食通販に臨むことは許されない。健食通販事業者は後の祭りとなる前にリスクを再認識し、自らの広告表現を再度チェックする必要がある。
関連23法人で売上140億、「東京総合販売」の事件概要
今回の事件は神奈川県警生活経済課が今年6月、健康食品の違法な販売で得た収益を使い、新たな会社を設立した疑いで「東京総合販売」(本社・東京都豊島区)の島田則康容疑者ら3人を組織犯罪処罰法(組犯法)違反の疑いで再逮捕したもの。島田容疑者はその前月、「脂肪が燃焼する」などと痩身効果をうたい健食を販売していたとして薬事法違反(未承認医薬品の広告の禁止)の疑いで逮捕されている。
捜査の端緒は、県内のカラオケボックス店頭に設置されていた通販カタログ。「去年の始め、カタログを手にした消費者がインチキ臭いと交番に届け出た」(神奈川県警)ことから捜査に着手した。
島田容疑者が実質的なオーナーである「東京総合販売」は、県警が確認しているだけで2002年以降、23の販社を登記していた。代表者も異なるため一見して別法人だが「広告内容の決定など実質的な業務は全て『東京総合販売』が仕切っていた。販社が行政指導を受ければつぶしていた」(同)という。
今回、適用されたのは組犯法第9条(不法収益による事業経営の支配)。「東京総合販売」社員の富田泰史容疑者が代表を務める「いいねっとJAPAN」(同)で得た不法収益315万円を、別の関連会社「健康生活」(同・熊本県甲佐町)設立の資本金に充て、株主の立場で中川敏容疑者を代表に選任していた。
「東京総合販売」は、これまで「グランディア」「ベルケア」と社名変更を繰り返しており、県警では行政指導を受ける中で、社名変更では指導を免れないと感じ、別会社設立を画策したとみている。
「東京総合販売」は、「健康生活」を通じ08年7月から09年9月にかけて「生サプリ」などの健食を通販で展開。約140億円(うち健食は74億円)の売り上げをあげていた。
神奈川県警との一問一答、組犯法適用の真意とは?
「東京総合販売」の島田則康容疑者らに対する組織犯罪処罰法(組犯法)適用に関する神奈川県警との一問一答は以下の通り。
◇
薬事法違反事件に対する組犯法の適用は珍しい。
「全国で3例目。通販業者では初めてになる」
通販で初適用となるが薬事法違反の問題をどう見ているのか。
「組織実態を解明して取り締まる必要があると感じている。入り口(薬事法違反)で終わらせては不十分ということ」
今後は組織実態を重視すると。
「今までもある程度は捜査してきたが、別会社の存在を知り"同じことをやっているだろうな"と認識していても見過ごしていた部分があったかもしれない。だが、それでは結局、その後も社名を変えて同じことを繰り返してしまう。実際に被害にあわれる方がいる中でせっかく適用できる法律がある。従来のやり方では駄目だと感じている」
過去の薬事法違反事件は懲役1年前後、執行猶予3年程度という判決が多い。それでは甘いという認識か。
「根拠のないものを販売し被害者を出している。悪質性を勘案すれば力を入れていかなければいけない」
これまでも忸怩たる思いはあった。
「それはあった」
今回の事件は過去の違反と何が違う。
「(違法な販売を繰り返す業者は)たいてい社名を変更するが、今回のケースでは実際に法人を設立し、事業支配力を持って役員を選任したという実態があった。このため組犯法9条(不法収益による事業経営の支配)を適用できた」
不法収益のプールの仕方が問題なのか。他の事業活動に充てている場合でも適用されるのか。
「社名変更だけでは難しいが、マネーロンダリング(資金洗浄)的なことも考えられる。10条(犯罪収益の隠匿)など別の条文も場合によっては適用できるかもしれない」
過去の違反事件も不法収益という意味では同じはずだが。
「同じだ」
では今後、薬事法違反に追加して組犯法を適用する可能性もある。
「資金の流れが明らかになれば適用する可能性が高い。組犯法適用の前提行為には薬事法違反も含まれる」
被害規模を勘案して適用するのか。
「規模で区切ることはない」
組犯法は暴力団等の取り締まりを趣旨とするもの。同法を適用するとなると事業活動の萎縮を招かないか。
「確かに暴力団の違法行為を取り締まるものだが、マネーロンダリングを取り締まる目的もある。不法収益で別の事業を展開するのは一種の資金洗浄だ」
9条は暴力団等による企業乗っ取り等に適用される。今回は自ら設立した会社の役員を選任したもので乗っ取りとは異なるが、適用できるものか。
「確かに乗っ取りではないが自ら設立した会社でも適用できるという判断だ。実際に起訴事例もある」
厳しい判断だ。
「当然だ。健食の販売業者が薬事法を知らないでは通用しない。なおかつ、これまでは薬事法だけだったが最近では組織犯罪として捉える流れがある。薬でもないのに効果効能をうたってはいけないということ。それさえ守ればいい」
薬事法の判断は難しい。それでは事業者は販売できない。
「それは仕方がない。現にそういう法律があり、自分たちの同業者が捕まっているわけだから。それを知りながら売るのかと。売りたい気持ちは分かるが正当な形での販売を考えて下さいということ」
事業者の相談は受け付けるのか。
「受け付けない。県の薬務課などに相談してもらうことになる」
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