使わず嫌いを固定ファンに
「ゾゾさんのおかげでネット販売は五割増しですよ」。スタートトゥデイと取引する某衣料品メーカーの通販担当者はこう口にする。
スタートトゥデイは前期、年間を通じて全商品の送料を無料にした。さらに、衣料品では稼ぎ時の冬物セールに合わせて初めてのテレビCMを打った。
そのため、「ゾゾ」には多くの新規客が押し寄せ、同サイトに商品を卸す衣料品メーカーも恩恵を受けたというわけだ。
とくに、1年間におよぶ全品送料無料のインパクトは大きく、何よりもネットで服を買ったことのない消費者を取り込んだことは業界全体にプラスとなったはず。
スタートトゥデイでは、ネットで服を購入することに抵抗のある消費者には「送料がハードルのひとつになっている」(前澤社長)と判断。まずは一度利用してもらうことで、"使わず嫌い"の消費者の目をネットに向けようと、思い切った施策に打って出たわけだ。
「ゾゾさんは送料無料を継続しないのか」。1年間というキャンペーンの期限が迫るにつれ、こうした声が業界に広がったが、同社はキッパリと送料無料を終了した。
「ゾゾ」の動向を気にする競合他社を尻目に、送料を復活して最初の月次業績(4月度)は、商品取扱高が前年同月比74%増を記録。送料無料で臨んだ前期の月次平均伸び率(69%)を上回る結果となった。
送料無料やテレビCMでつかまえた新しい顧客を、「ゾゾ」はしっかりと定着させたことになる。ここに同社の強みがありそうだ。
年間購入額が"毎年"増加へ
同社は、今期も売上高で前年比34%増、営業利益は42%増、商品取扱高は50%増という高い目標を掲げている。
経営目標を立案するのに当たり、同社では過去5年間にわたるアクティブ会員(1年以内に購入実績のある顧客)の購入動向、離脱率などの詳細データを集計した。
その結果、アクティブ会員1人当たりの年間購入金額は、会員になった年の2万7362円に対し、翌年は5万7406円、3年目は6万2915円と拡大していることが分かった。
さらに、アクティブ会員が翌年以降、離脱せずに定着する率も、会員になった年から2年目にかけての59%に対し、2年目から3年目にかけては84%、3年目から4年目にかけては91%と、2年目以降は"ひいき客"として安定的に購入する姿が浮かび上がった。
ネットで服を買うようになった顧客が「ゾゾ」を使い続けているのは、「ゾゾに行けば欲しいものが見つかる」という期待感だ。
実際に、前期は年間65件の新しいショップとの取引を開始し、今期も同水準で取引先が増える見込みだ。この数カ月間の顔ぶれを見ても、女性向けセレクトショップや英国の老舗ブランド、フランスの子供服など幅広い。
競合するアパレル通販サイトがレディース主体の品ぞろえを進める中、「ゾゾ」はメンズ衣料にも手を抜かない。3月末の会員属性は女性54%、男性46%と拮抗しており、男性からも支持されていることが分かる。
今年1月には、国内外で活躍するデザイナーズブランドを集めた新しいモールをオープンしており、服好きがうなるブランドを誘致していることも、顧客が「ゾゾ」から離れない理由のひとつだ。
在庫情報を共有、機会ロス低減へ
また、せっかくお気に入りの服があっても完売していたら消費者は他サイトに流れてしまう。これを避けるためには、取引先メーカーから「ゾゾ」向けの商品を豊富に確保してもらう必要がある。
「ゾゾ」では昨年、欲しい商品が在庫切れだった場合、再入荷を希望する「リクエスト機能」を追加し、当該商品が入荷されたら消費者にメールで知らせるサービスを始めた。
この機能を加えたことで、「この商品はもっと欲しい人がいた」という情報をメーカー側も知ることができ、精度の高い商品政策を組めるようにした。
前期は、この再入荷希望の合計が300億円に達した。このうち、どれくらいの商品が再調達でき、実際に消費者が購入したかという数値は非公表だが、前期の商品取扱高が370億円だったことを考えると、これに近い大きな需要が眠っていたことになる。
この"300億円分の顧客の声"に対応するため、「ゾゾ」では5月中旬から取引先メーカーと在庫情報を共有する取り組みに着手した。メーカーの持つリアルタイム在庫が分かる仕組みで、同社の物流拠点に在庫がなくても、メーカーが持っていればサイトには「完売」と表示されず、受注できるようになる。
この取り組みは、大手セレクトショップのユナイテッドアローズ(UA)から開始する。UAグループの売り上げは「ゾゾ」の中でもっとも大きく、UAもまたネット販売の多くを「ゾゾ」に依存しているため、互いにメリットを享受できる。
今後、中堅以上のアパレルとの交渉を本格化させ、機会ロスの削減につなげる。
M&Aを実施し、二次流通に参入
新たな取り組みとしては今年4月、オークションサイトを運営するクラウンジュエルに資本参加し、衣料品の二次流通市場に参入した。
「ゾゾ」を頻繁に利用する顧客は不用になった服をオークションサイトなどの二次流通を活用していると分析。200万人を超える「ゾゾ」会員に商品を販売した後の流通サイクルを補完することで、「ゾゾ」で買って「クラウンジュエル」で売り、また「ゾゾ」で買ってもらう仕組みが作れる。服の二次流通でも市場を拡大できるか、注目される。
今期150万人の会員獲得へ
前期は売上高、商品取扱高、営業利益、会員獲得数など多くの指標で過去最高を記録したスタートトゥデイ。同社の前澤友作社長に今後の成長戦略や新しい取り組みなどについて聞いた。(聞き手は本紙記者・神崎郁夫)
──今期、150万人の新規会員獲得という高い目標を立てている。
「新規会員数は方程式である程度導き出せる。プロモーションにいくら使って何をするかで見えてくる。今期、商品取扱高の着地予定が555億円で、そこからプロモーションにいくら使えるかを考えると150万人は固いと見ている」
──上ブレする可能性もあるということか。
「もっとお金かけて成長しろと言われれば、できる。ただ、短期的に利益を出せても明るい未来は待っていない。問題は"成長"という変化に対応できる組織と人材だ。楽しく、やりがいを持って働くことが大切。その理念を崩したくない」
──期末には、既存会員(200万人)と合わせて350万人になる。
「350万人という数は、当社がターゲットにしている顧客層の人口の約1割だ。今期末には、3人に1人が『ゾゾタウン』の名前を知っていて、10人に1人が登録ないしは購入してもらいたい」
──テレビCMで大きな成果を上げた。
「宣伝広告費は前期比2倍の21億円を計画している。テレビCMは効果が高く、5倍に増やす。大型セールの前やシーズンの変わり目を中心に打つ。年間を通じて計算すると、2日に1回は放送しているはずだ」
──(商品取扱高で)1000億円の到達を13年3月期に設定した。
「道筋は見えている。需要と供給のバランスさえ間違えなければ問題はない。リアルイベントだとか奇をてらったことはしない。顧客がいて、商品があるというシンプルなビジネスを追及する」
──供給面では、取引先メーカーと在庫情報の共有化を始める。
「簡単に言うと、メーカーさんの持つリアルタイム在庫が分かる仕組みだ。第1弾はユナイテッドアローズさんと取り組む。まずは倉庫在庫で連携を始める。お互いに機会損失をなくせる取り組みなので、今後は中堅以上とも交渉し、店頭在庫も含めて共有化したい」
──顧客から商品再入荷の要望がかなりある。
「前期でいうと売上高は370億円だが、これ以外に300億円分の『再入荷お知らせメール』、つまり商品リクエストがあった。こうしたニーズに応えるために在庫情報の共有化を始めた。300億円のすべてが機会損失ということではないが、そのポテンシャルがあるということだ」
──取引先との関係も変ってきそうだ。
「従来、メーカーさんは自分たちの在庫情報を外部に出すことはなかった。ただ、そうは言っていられない状況になった。ネットで売れれば、店舗の売り上げは間違いなく落ちる。不採算店舗を整理するなどの経営判断も必要だ。店舗のバックヤードに在庫を持つ発想も古くなる。店舗間移動が発生し、無駄な流通コストがかかる」
──一方で、商品写真などをメーカー側が管理していく動きもある。
「写真などはブランド価値を表す大事な要素だが、商品を欲しいというユーザーニーズまで制圧するのは良くない。消費者あっての生産者であり、小売りという視点はお互いに忘れてはいけない」
──オークションサイトを運営するクラウンジュエルに資本参加して二次流通市場に参入した。
「『ゾゾタウン』で買って、『クラウンジュエル』で売って、また『ゾゾタウン』で買ってもらう仕組みができる。M&Aはシナジーの出る市場で進めてきたが、双方に効果があると判断した」
──商品取扱高の拡大で物流面に不安は。
「今期中に倉庫を拡張する。物流拠点『ゾゾベース』の中で増やす予定だ。今後は一部、機械化していくことも検討している。数100億から1000億円の取扱高が見えてきた中で、選択肢も広がっている。人が追いつかなければ機械化もあり得る」
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